加藤さんの墓は、4年前に造られている。

「父と一緒に墓石を選びに行きました。景色がよく、自然に囲まれた墓地です。なるべく小さく、目立たないものにしたいというのが父の希望でした。

 “家族だけが来てくれればいい。有名人のお墓マップには絶対に載せてくれるな”と。“ファンの方に来ていただくのは申し訳ない”とも話していました」(諒)

 スターらしい絢爛な暮らしぶりとは無縁で、静かな日常を何よりも大切にした。

'81年、自宅での父と子たち。剛さんは仕事が終わると、まっすぐ家族のもとへ
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「思い出すのは、一緒にお茶したとか、猫と遊んだとか、そういう記憶。何気ない一瞬一瞬が不意に思い出されて、すごくかけがえのないものだったと実感します」(諒)

 加藤さんが何でもない生活こそが貴重だと考えていたことには理由がある。

「父の根底にあったのは、若い人たちを戦地で死ぬ運命にはさせたくないということ。7歳で終戦を迎え、戦争の悲惨さや空襲の怖さの記憶がある最後の世代。それを伝えるために役者をやっていたんです。

 日常を理不尽に破壊していくのが戦争だと。そういう世の中になっていくことを危惧していました」(諒)

 まっすぐな生き方を貫いた名優は、切実な思いを次世代に託して旅立っていった。