ただし、調整がうまくいっただけで、脳には回復していない部分もある。

帽子や眼鏡も環境調整のアイテムと鈴木さん。過剰な集中がやわらぐ

「いまでも記憶障害がまだあります。先日は、姪っ子からもらったプレゼントの存在を、もらったときのエピソードごと忘れていて、おおいにへこみました」

 忘れないための対策は、毎日起きたことを記録すること。それにも工夫が必要だ。メモを置くなら、日常生活の動線上に置く。そうすれば必ず目に入る。

 ただ、こうした「障害」は周囲には見えないし、わかりにくい。家族や友人、仕事先には、どう説明したのだろうか。

「自分ができないことは文章にしました。パニックを起こすので、かかってくる電話は基本的に出ない。その場の作業を強制的に中断される電話の着信は、テロ並みにきついんです。工夫すればやれることは増えるので、障害は全部開示しましたが、離れていく仕事先もありました」

 こうした対策ができるのは、ライターという仕事の特性のほか、鈴木さんの性格、症状の種類や程度などが関係している。

 障害が残ったことで、鈴木さんは夫婦関係が改善したと話す。

「病気になって、発達障害のある妻の生きづらさに気づくことができました。お互いにできないことをカミングアウトしたんです。ふたりともたくましくなったと思う。できないことは埋め合えればなんとかなります。病気になる前の関係には戻りたくないですね」

ヘルプカードをつけてみたけれど……

 榊美香さん(仮名=34)は双極性障害の診断を受けている。憂うつで無気力な状態がある一方、爽快な気分になることを繰り返す。今年になり、職も転々としている。自殺をよく考えるようになったこともあり、精神障害手帳が3級から2級になった。しかし、こうした障害は外からはわかりにくい。

 今年2月、駅で過呼吸となり、駅員に保護された。そのときに「ヘルプカード」をもらった。

 ヘルプカードは障害─特に聴覚障害や内部障害、知的障害など、一見して障がい者とわからない人たちが、援助や配慮を必要としていることを知らせるものだ。当事者だけでなく、その家族や支援者にも安心感を持たせ、緊急時にコミュニケーションのきっかけになったり、障害への理解促進に役立つことが期待されている。

 つまり、カードをつけることは、見えない障害を持つと表明することでもある。榊さんは1か月悩んだ末、つけてみることにした。