年を重ねることは悪くないもの

村山由佳さん 撮影/山田智絵
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 トキヲと同じ時間を過ごすうちに、ハナのなかには新たな感情が芽生えていく。

「相手との間に信頼関係があったとしても、おろそかにしていたらいつかは壊れてしまいますから。全身全霊で甘えられる、信頼できるということとは別に、その信頼をくれた相手のためにも、自分の人生をきちんと大事にしてこたえていかないといけない。

 ハナと同じように、私も物事の考え方が根本的に変わったような気がします

 村山さんは、“リアルトキヲ”との出会いを恩寵(おんちょう)のようなものだととらえているそうだ。

「カレのような存在を求めていた意識はありませんから、出会えたことは本当にラッキーだったと思っています。

 それこそ、猫1匹でも、趣味でも友人でも、人生にはちゃんと、その人のための僥倖(ぎょうこう)がどこかで待っているものなのかもしれないですね」

 加齢にマイナスのイメージがつきまとう今、村山さんは次のような実感を持っているという。

「おそらく、30代、40代で今の相手と出会っていたとしても、その価値がよくわからなくて途中で放り出していたような気がします。50歳を越えた年齢だからこそ、カレとの関係によって得られることのありがたみがわかるのだと思います。

 私くらいの年代になると、夫婦関係とかセックスレスとか、いろいろな問題にぶつかっている方が多いと思うのですが、それでも年を重ねることは悪くないものですから。『はつ恋』を読むことで元気になり、未来の自分に希望を持ってもらえたらと思っています」

ライターは見た!著者の素顔

 この1年、計6冊の作品を上梓(じょうし)し、作家デビュー25年目にしていちばん忙しい年になったという村山さん。元気の秘訣を教えてもらいました。

おいしいものを“おいしいね”って言い合いながら食べることかな。

 パワーフードは肉で、風邪をひこうが熱があろうが平気で食べられるんです。そういえば、昨年92歳で他界した父はとんかつ定食をペロリと平らげていました。私も朝からステーキを食べられますし、丈夫に生んでもらえて本当にありがたいです」

『はつ恋』村山由佳=著 ポプラ社 1620円(税込)※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします
PROFILE●むらやま・ゆか●1964年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。1993年『天使の卵―エンジェルズ・エッグ―』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2003年『星々の舟』で直木賞を受賞。2009年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞を受賞。近著に『嘘 Love Lies』『風は西から』『ミルク・アンド・ハニー』『燃える波』『猫がいなけりゃ息もできない』など著書多数。

(取材・文/熊谷あづさ)