「自分で選べる環境」が必要

 前述の通り、管理職には不安があるという人は、女性に限らず若い人を中心に増えています。大変さ以上のやりがいがあると言われても目には見えないものですから、それよりも「忙しそう」「部下の責任までも負わないといけない」「今までの生活が変わるのが心配」と、想像しやすいマイナス要素ばかりが浮かんできてしまうのは無理もないことだと思います。

 このような管理職に対する漠然とした不安を解消するため、一例ですが、弊社では役職につく人に対して「お試し期間」を設けています。「その人自身が望むなら、役職を降りることも可能」というものです。

 一度そのポジションになってしまったら戻ることはできないと思うと躊躇(ちゅうちょ)してしまいますが、お試しでいいならやってみようと、チャレンジするハードルが下がるのです。自分にストレス耐性があるかどうかというのは、実際にその環境に身を置いてみないとわからないものですし、周りから見ても適切に測れるものではありません。

 実際、お試し期間を経て「私には難しそうだ」と言って役職を降りる人はいます。これまで女性・男性にかかわらず数人からそういった申し出はありました。

 いったん役職に就いた人がまた一般社員になることは、多くの人にとっては体面などを気にしてしまうところかもしれません。そこで、この制度のポイントとなるのは、「経営・人事側から役職を降ろすことはしない」という点です。

 能力不足によって役職を降ろされるわけではないので、モチベーションが下がったり、周りからの視線を気にしたりするということもないようです。むしろ就いてみた経験があるからこそ、いまの自分自身の“働き方のライン”を知ることができるわけです。

 一度ギブアップしても、また時機が来たら声をかけます。このような流動的な人事が日常的に行われていると、管理職にチャレンジすることも、降りるということも、当然のように受け入れられていくようになるものです。

 ただ、これから出産や育児を考えている人にも同じように管理職についてもらうことを推奨するべきかと問われると、そこは慎重になるべきだというのが私の考えです。

 結婚生活や子育てを大切にするために、現時点では仕事量をある程度セーブしたいと思っている人に、「優秀だから責任ある立場についてほしい」と言っても、苦しめてしまうだけの可能性があります。

 しかし、そこで昇進を断って家庭を取ったら今後のキャリアを諦めないといけない、という二者択一の状況はなくすべきでしょう。

 一度は産休・育休や時短の勤務体制を選んだとしても、家庭のことが落ち着いて会社や仕事の優先度を上げていきたいと本人が思ったときに、管理職や、部下を率いる責任ある立場になってもらえるようにする。このような土台を作っておくことが、女性の自由なキャリア選択につながっていくのではないでしょうか。

 現在盛り上がりを見せている働き方改革においても、副業解禁やワークライフバランスの改善など、「働く者一人ひとりが生き方を選択できる環境」を作ることが重要視されています。女性が活躍していくために必要なのは、自発的に何かを「やりたい」と思ったとき、その環境が整っていることだと感じています。