今年2月に退任した那珂市の元市長・海野徹さん(69)は、現職中、東海第二原発周辺6市村で最初に再稼働反対を訴えた。

原発隣接自治体の首長として再稼働反対を訴えた海野前市長

「私はもともと、安全神話に浸かって原子力発電所に賛成していた側の人間です」

 だが、福島第一原発事故が起きて、その考えは一変する。'12年2月に訪れた避難指示区域にある町の光景に、ショックを受けたからだ。ホームセンターの駐車場に残されたカートに荷物があり、サンダルは散乱したまま。着の身着のまま逃げたことがうかがえた。広範囲に人々の暮らしが奪われてしまう町を目にして、「原子力は人間のコントロールできる範囲を超えている」と思い直したと話す。

 原発事故から5年後、那珂市で住民アンケートをとると、再稼働の反対は65%を超えていた。

「これが民意だと思いました。事故直後であれば8割は反対していたでしょう」(海野さん、以下同)

 東海第二原発に事故が起きたとき、住民はどこへどう逃げればいいのか。那珂市は避難計画で細かく定めている。避難にあたっては行政区ではなく69ある自治会(100〜1000人程度)単位でとらえ、避難場所も「◯◯体育館」「◯◯センター」といった具体的な施設名をあげる。広域避難先となる筑西市と桜川市とも「原子力災害時における県内広域避難に関する協定」を締結、避難計画に関する住民説明会も市内5か所で計6回は行った。

子孫に今より素晴らしい環境を

 しかし、それでも海野さんは、「すべての市民の安全な避難に向けた、実効性のある広域避難計画は不可能」だと指摘する。

「例えばスクリーニング。住民に放射能汚染がないかチェックしてから避難をしなくてはならなくなった場合、道路で車を1台ずつスクリーニング検査するという想定をしています。そこで大渋滞が起きてしまう。しかも数時間レベルではなく、数日レベルになってしまうのではないか……」

運転開始から40年を超えた東海第二原発は老朽化が懸念される

 東海第二原発の30キロ圏内14市町村は、夜間人口で96万人。一方、福島第一原発事故による避難者(最大時・30キロ圏外も含む)は16万5000人にのぼる。実際の避難者数はさらに多いとも指摘されており、東海第二原発における96万人の避難計画がいかに無謀かがわかる。

 海野さんは、原子力防災を各自治体へ丸投げしている国の姿勢に疑問を抱く。避難計画の策定には、時間もマンパワーも、財源も、さまざまな負担がかかる。

「そもそも原子力政策を進めているのは国ですから、各自治体にゆだねるのではなく、自ら責任をもって実効性のある避難計画を策定すべき。さらには、それを再稼働の要件に含めるべきでしょう」

 海野さんは市長時代に記したコラムに、こうつづっている。

《私たちは子孫に今より素晴らしい環境を残さなければならない義務がある》

 災害から教訓を学び取り次の時代へ活かす責任が、国はもちろん、私たちひとりひとりに問われている。

(取材・文/吉田千亜)


【PROFILE】
吉田千亜 ◎フリーライター、編集者。東日本大震災後、福島第一原発事故の被害者・避難者への取材を精力的に続けている。近著に『その後の福島:原発事故後を生きる人々』(人文書院)。