テレビに未来はあるのか?

 事実、このころになると図表が示すとおり、若者を中心にテレビの視聴時間は激減している。60代以上の1日平均4時間に対して、10代~20代はいずれも2時間未満。“お茶の間”という言葉は死語と化し、かわりに“テレビ離れ”という言葉が台頭した。

 テレビ離れに拍車をかけたのがスマートフォンだ。総務省の通信利用動向調査では、'10年に9・7%の保有率だったが、わずか10年足らずで75・1%('17年)にまで急伸している。

「誰でも撮影、録音できることで、パワハラやモラハラは可視化された。その結果、刑事事件とまではいえないモラルの問題がテレビで扱われることが増えてきました」(吉野さん)

 “コンプライアンス”という言葉が注目を集めるようになり、テレビ局は自主規制を意識しながら番組制作をする時代に突入する。平成のはじめ、流行の発信装置だったテレビは、約30年で役目を終えたことを指す“オワコン”と揶揄されるまでに激変してしまったのだ……。

 はたして、テレビに未来はあるのか?

「ハズキルーペが大きな話題になったように、早く広く伝わるテレビの広告媒体としての力は、まだ高く評価されています。ネット広告ではまねできない効果を、テレビ局や広告代理店がより真剣に考えれば、新しい道が開けるのではないでしょうか」(大場さん)

 一方、コンテンツづくりに関しては「美味いラーメン屋さんを目指すべき」と、吉野さんは語る。

平成の間に、視聴者は選べる立場になった。ケーブルテレビ、動画配信サービス、ネットテレビ、アプリ……その中にテレビがあります。

 インスタグラムなどのインスタントなものや、海外の豪華ドラマなどに対し、テレビに求められているのは、手ごろだけどおいしいラーメン屋さんのような存在。そうなれたら、差別化できて生き残れます」(吉野さん)

 大事なことは“美味い”というクオリティーを担保できるかどうか。“見せる”ものから“魅せる”ものになれば、間もなく迎える新しい時代、テレビの未来は明るいかもしれない。


《PROFILE》
大場吾郎さん
佛教大学社会学部教授。日本テレビ放送網株式会社入社後、ディレクターなどを務め2001年退社。著書に『テレビ番組海外展開60年史 文化交流とコンテンツビジネスの狭間で』など

吉野嘉高さん
筑紫女学園大学現代社会学部教授。1986年フジテレビジョン入社。情報番組のディレクターや社会部記者などを務め、2009年同社を退職。著書に『フジテレビはなぜ凋落したのか』