野口さんの普段の仕事は段ボールの整理にゴミ出し、お茶入れといった雑用だった。でも、それだけではなく普段からスタッフたちのパシリもしていた。細々した買い物とか、用足しを進んでやる。瞬く間に人気者になった。出勤すると、注文票を見て忙しい部署の見当をつける。そうして絶妙なタイミングで“お節介”しに行くのだ。

「ただただ“いやあ、助かるよ”って言ってもらいたくて。言われないなら、まだ何か足りないんだ、あとプラスアルファで何をすれば“助かったよ”って言ってもらえるんだろうって、寝る間を惜しんで考えていたんです」

 誰でも、自分に興味を持ってくれる人には心を許すものだ。

 そのうえ、自分が忙しいときにはどんな雑用でも積極的に手助けしてくれる。こうして多くの社員の心をつかみ、信頼を得てアルバイトから正社員になった。入社してから3年目のことだ。

「私、嫌いな人つくらない主義なので、どんな人でも絶対仲よくなれると自信があったの。あきらめなければ願いは叶うんだって思いました、うれしかったなぁ……」

 嫌いな人をつくらない主義。それは彼女の意外な幼少期の体験によって培われていた。

意地悪な人がかわいそうに見えた

両親との記念写真。母親には「“すみません”を言わずにすむように人より先に気づきなさい」と教わった
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 小学6年生ですでに168cmと高身長で、いつも周囲から頭ひとつ飛びでていた。その身長のせいなのか中学を卒業するまでいじめられていたという。

「友達がひとりもいなかったの。いじめは小さなことなんだけどね、私だけみんなと違う連絡が来て“赤い糸でぞうきんを縫ってきて”とか言われる。で、持っていくと、みんな白い布に白い糸で縫ってあったり」

 背が高く目立つ野口さんは、格好のいじめ対象だった。しかも恥をかかされても「ホントだー、私だけ違うじゃん!」と笑い飛ばし、いじめを逆手に取って「目立って結果オッケー」にしてしまう。

 自分以外にいじめられている子がいると「いじめるなら私にしなさいよ」と言って、身代わりになって自ら田んぼへダイブした。畑で唐辛子を目いっぱい口に含む遊びが流行り、やはり、ほかの子がターゲットになると、自らワーッと口に唐辛子を放り込んだ。そして「これで気がすんだ?」といじめっ子たちを見上げる。

 なぜこの人たちは自分をいじめるのだろう、どうして自分はいじめられるのだろう。

 その理由はわからなかった。だが、いじめる子たちの気持ちは想像ができた。

どんなにいじめられてても、その人のことは嫌いじゃなかったの。いつも親の愛情を肌で感じていたせいか優しい気持ちでいられたので意地悪な人がかわいそうに見えて。なかなか理解できないと思うけど……。いじめる人って寂しかったり、心のどこかに穴があいてると、子どものころから感じていたんです」

 かといって傷つかないわけではない。毎日毎日、学校へ行けばいじめられる。明日を楽しみに生きていた。明日こそいじめられないだろうと言い聞かせながら。

「私ね、リカちゃん人形になるのが夢だったんです。妹たちは可愛いねって言われるのに、私は親にすら言われたことがない。いじめっ子からはデブだブスだって言われてたから、可愛くなりたかった。自分を守るために明日、リカちゃんになれるかもしれないから楽しく生きようって思っていたんです

 いじめ経験が、社会に出てホステスをはじめると、大いに役に立った。