このアイドル・香取慎吾の感情は、近年よくあるテレビやSNSでの暴露といった流れとは一線を画す形の「芸術表現」の額縁で飾られ、鑑賞者の感性だけに直接、届けられる仕組みになっているということでした。

「芸術表現」の解釈には世の噂や評価、また他者の正論もあまり関与できず、それぞれの感性にともなう答えだけが、後年、唯一の記憶として残っていきます。

 それはある意味、アイドルが普段からテレビやライブを通じて行っている「1対1の感情交流」と、まったく同じなのかもしれません。

 だからこそ、アイドルというアイデンティティーを大事にする香取さんの中で、この生々しい感情の発露も「アイドルエンターテイメントのひとつ」として、絶妙なバランスで成立できたのでしょう。

 そしてそれに気づいても、気づかなくても、個展の来場者はいつしかテレビやライブを見ているかのように、ひとつひとつの作品に夢中になり、時間の許す限り、アイドルの感情に対する自分だけの解釈を、目や心に深く残そうとしていくようになるのです。

香取慎吾『サントリーオールフリーpresentsBOUM!BOUM!BOUM!香取慎吾NIPPON初個展』(筆者撮影)
【写真】アーティスト香取慎吾の個性的な作品たち

新たな明日への励まし

 私が個展に行ってから、少し日にちが経過しようとしていますが、それでも刻まれた記憶は醒(さ)めることなく、今回ばかりは遠征してでも見に行って本当によかったな、という実感が残り続けています。

 今回の個展は、舞台でも番組観覧でも、そしてライブでもないので、そこにアイドル本人がいた、会えて手を振ることができた、というわけではありません。

 ただ、遠くとも同じ世界で、確かにアイドルが生みだしていた作品たちの存在。

 そのこまやかな筆致や痕跡のひとつひとつをこの目で追えたことで、自分自身の人生と「SMAP以降の香取慎吾」の歩みはやっと再び重なった気がしました。そしてそこには、今までの活動とはまた違う思い出が育む、新たな明日への励ましが待ってくれていたように感じられるのです。

 テレビでもライブでも、そしてSNS上でもない場所にあるアイドルの感情とメッセージ。もしかするとそれに触れる経験は、アイドルとの近い距離感がこれだけ尊ばれるようになった時代だからこそ、貴重だったのかもしれません。

 そんなことを“会えないファン”にもいま1度、思わせてくれた『サントリー オールフリー presents BOUM ! BOUM ! BOUM ! 香取慎吾NIPPON初個展』。この後も6月16日(日)まで、IHIステージアラウンド東京で引き続き開催中です。


乗田綾子(のりた・あやこ)◎フリーライター。1983年生まれ。神奈川県横浜市出身、15歳から北海道に移住。筆名・小娘で、2012年にブログ『小娘のつれづれ』をスタートし、アイドルや音楽を中心に執筆。現在はフリーライターとして著書『SMAPと、とあるファンの物語』(双葉社)を出版しているほか、雑誌『月刊エンタメ』『EX大衆』『CDジャーナル』などでも執筆。Twitter/ @drifter_2181