親の金銭管理をスムーズにするには?

 認知症などで親の判断力が低下すると、心配事が増えます。本人が預貯金の出入金をできるのか、悪徳業者にだまされないか……。まずは福祉サービスを利用する際、通帳などを預かってくれる「日常生活自立支援事業」の利用を考えてみましょう。相談先は社会福祉協議会です。さらに高齢者を法律面、生活面で保護・支援するのが、「成年後見制度」です。

 利用したい場合は、家庭裁判所に申し立てを。すると、家庭裁判所が後見人を選びます。以前は後見人に選ばれるのは家族が多かったのですが、親族による横領事件が多発したことから、現在は司法書士や弁護士が多くなっています。後見人は生活・医療・介護・福祉に関わる契約などを援助する「身上監護」と、財産管理を行います。成年後見制度の申し立ては、弁護士に依頼すると20万円(実費別)ほど。申し立てから審判までは2~4か月かかります。後見人への報酬は、月額2万~6万円が目安です。

 また、「信託」の仕組みを使う方法も。信託とは、契約により、委託者が信頼できる人(受託者)にお金や土地などの財産を移転。受託者は受益者のために、その財産を管理します。

 親が元気なうちに委託者・受益者が親、受託者が子となる「家族信託」を結ぶことで、例えば子が親名義の自宅を売り、親の有料老人ホームの入居費用をまかなうことが可能になります。信託は、受託者と委託者が契約書を交わせばOK。

「ただし、きょうだい間のトラブルを避けるためにも、弁護士などに相談し、公正証書にして残すことをおすすめします」(太田さん)

長期化しがちな介護で大切なこと

 心身ともに負担がある親の介護。太田さんは、「『介護生活』に入るのではなく、今までの生活に介護がプラスされるだけ。仕事、パート、趣味など、自分が大事にしていることは手放さないで」と話します。いったん仕事や趣味を中断してしまうと、再開しづらいもの。「旅行が趣味の人なら、『もう海外旅行へは行けない』ではなく、『どうやったら行けるか』を考えてみてください」と太田さん。

「お金も体力も有限です。『親が100歳まで生きたら? 自分はいくつになる?』を考えてみてください」(太田さん)。自分らしく生きることが、持続可能な介護につながっていくのです。

<プロフィール>
太田差惠子さん◎介護・暮らしジャーナリスト。「NPO法人 パオッコ~離れて暮らす親のケアを考える会~」理事長。25年以上にわたり老親介護の現場を取材し、介護とお金、介護と仕事の両立などについての情報を発信。『親の介護には親のお金を使おう!』(集英社)など著書多数。

(取材・文/仲川僚子)