「今、空き家が大幅に増えていますよね。これを国や行政が借り上げ、シングルマザーのシェルターにできないかと。一定期間、家賃の心配がなくなれば、資格取得のために学校に通ったり、自立に向けた準備ができます。シングルマザーに限らず、精神的に弱って引きこもってしまった家賃滞納者にも、敗者復活ができる環境を、整えていきたいと考えています」

 年間70回を超えるセミナーや、政府、行政の勉強会に呼ばれては、現状を訴える。

「こないだは、山下貴司法務大臣に、面会時間をつくってもらって、シングルマザーの現状を伝えてきました。1度では時間が足りないので、また行くつもりです!」

 臆することなく大物にも会いに行く。そのフットワークのよさと、押しの強さは、舌を巻くほどだ。

「私の力なんて、微々たるものです。でも動かなければ、何も始まらない。そもそも私が司法書士に合格したこと自体、奇跡みたいなもの。それは、人の役に立てってことなんですよ。ここまでやってこられたのも、たくさんの人に助けてもらったおかげです。ちゃんと恩返ししないと、ばちが当たっちゃう」

 現在、都内で1LDKの賃貸マンションにひとり暮らし。「財産らしいものなんて、何も持ってない。実家とも絶縁状態だから、両親が亡くなってからも、何も相続してない」と、さらりと言う。

「だから、仲のいい大家さんに今から頼んでるんです。私が年寄りになっても、部屋を貸してねって。高齢の大家さんがボケて忘れちゃうといけないので、跡継ぎの息子さん、紹介しといてって(笑)」

 朗らかな笑顔の中に、静かな闘志を忍ばせる。

 太田垣さんは、今日も家賃滞納の現場に足を運ぶ。人生の仕切り直しを手伝うために。

高齢者の話を何時間も聞き、解決後も見守る。複雑な案件でうまくいかないと涙することも
高齢者の話を何時間も聞き、解決後も見守る。複雑な案件でうまくいかないと涙することも
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取材・文/中山み登り(なかやまみどり)ルポライター。 東京都生まれ。高齢化、子育て、働く母親の現状など現代社会が抱える問題を精力的に取材。主な著書に『自立した子に育てる』(PHP)『二度目の自分探し』(光文社文庫)など。高校生の娘を育てるシングルマザー