結婚生活も順調だった。1女1男に恵まれ、当時は珍しいイクメンだった。芳実さんは「一緒に戦ってくれた戦友」と魔夜さんを労う。

「2人とも親がそばにいないので、頼ることができませんでした。夫婦2人での子育ては、私が考えていたよりもずっと大変でした」

 幼いころからバレエを学んできた芳実さんは自宅でバレエ教室を始め、やがて子どもたちも習うようになった。「最後のプライドが……」と渋っていた魔夜さんも44歳で一念発起し、バレエを始めた。その様子や子育ての体験をネタにしたマンガ作品も多数ある。

 夫婦仲睦まじいのは周囲では有名な話だ。魔夜さんが取材を受けるときには芳実さんが付き添うことが多い。たいていのことを覚えていない魔夜さんは、答えられない質問が来ると「なんだっけ?」と妻を振り返り尋ねる。それに細かく答えていく芳実さんの姿は、長年連れ添ってきた夫婦の年輪を感じさせる。

 舞台パタリロ!』で主役の国王パタリロを演じた俳優、加藤諒さんも、夫婦の仲睦まじさを絶賛する。

舞台の打ち上げでカラオケに行ったんです。ご家族全員でいらしてくださったんですが、店の移動中、ずっと手をつないで歩いているんですよ。ミーちゃん先生(魔夜)はアニメのエンディング『美しさは罪』を歌っていましたが、間奏中に奥様にキスしたりするんですよ! こういう夫婦ならいいな〜と羨ましくなりました」

 娘のマリエさんも両親の仲のよさには太鼓判を押す。

「朝ご飯を食べていると、両親が“おはようのチュー”とかするんです。小さなころからですね。この前もね、私の赤ちゃんのころの写真を見ていたら、横から父が覗き込んで“わ、ママかわいい!”って言ったんですよ。大好きじゃんと思って、ほんとに」

 '80年代、漫画家になって早々に大ブレイクを果たした魔夜さんのもとには毎月、ファンレターが段ボールに山積みになって送られてきた。自宅と仕事場を往復する毎日だった。

冬の時代、到来

 しかし'90年代末ごろから、出版業界全体で少しずつ本が売れなくなっていく。大手の古書店が全国に拡大し、格安でマンガが買えるようになった。インターネットも普及し、娯楽も増えた。魔夜さんの単行本も例外ではなく、次第に売り上げが落ちていった。そして魔夜さんいわく、「冬の時代」が到来する。

 約5年間続いた苦境を、本人は至って冷静に振り返る。

「冬の時代も、そんなに落ち込むことはなかった。よく眠れていましたし」

 だがプレッシャーがないわけでもない。もともと酒好きだったが、どんどん酒量は増え、ひと晩にウイスキーボトル1本半を空けるようになっていた。芳実さんも黙ってはいられなかった。

「数年前から、お酒に関してはよく議論をしていたんです。飲酒や喫煙が身体によくないことはわかっていますが、“やめるほうがストレスになって健康によくない”と言われてしまう。それが彼にとって大切なことだと思うと、強く言えませんでした」