ショックでバイオリンを握れず

 ところが、そんな大切な家族に大きな試練が訪れた。

「バイオリンは家族のおかげ、自分の力で身につけたのはトークだけ」と笑わせる 撮影/廣瀬靖士
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去年の11月におじいちゃんが胃がんだとわかり、すでにステージ3で危ない状態でした。そのショックが大きくて、僕は初めてバイオリンが握れなくなったんです

 母のがんに続いて、またもや……。念願のメジャーデビューができて、状況が一変した中で、「その期待に自分が応えられるだろうか」というプレッシャーも常にあった。

 しかし再び彼を奮い立たせたのもバイオリンだった。

「うちはお父さんがいないぶん、おじいちゃんが家計を支えてきてくれたけど、定年退職した今、僕がバイオリンを握れなかったら、おじいちゃんの医療費も出せなくなる。不安とか甘ったるいこと言ってる場合じゃない。そう思って無理やり握っていたら、また弾けるようになったんです

 12月にはクリスマスコンサートの予定があり、待っていてくれるファンの人たちを絶対に裏切れない。1月にはおじいちゃんの手術もあった。

「その12月は今までにないほど、身体をとことん追い込みました。僕は決めていたんです。バイオリンの技術は死ぬまで追い求めることができるけど、身体を使ってパフォーマンスするのは、これが最後だ、と今思えば、あの22歳の12月が僕の人生でいちばん身体の仕上がりがよかったと思います。これからは障がいによる衰えを認めながら生きていく。それが本当の強さだと思うようになりました

 年末の時点では、まだ1周年コンサートは決まっていなかった。「これが最後かもしれない」。その瞬間を、命を燃やすようにバイオリンと向き合い、障がいと向き合っていく。彼のパフォーマンスは、そんな覚悟の中にある。