愛する人を救うためなら、
世界の形だって変えてやる『天気の子』

映画「天気の子」初日舞台挨拶 撮影/高梨俊浩
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 ’16年に公開された前作『君の名は。』は日本で250億円という興行収入を記録し、爆発的な大ヒットとなった。全世界興行収入も3.5億ドルを突破し、日本映画の世界歴代興行収入1位を記録。J・J・エイブラムス率いるバッド・ロボットの製作でハリウッドの実写版リメイク企画も進行している。

 この世界的なヒットの後に製作された『天気の子』は、新海誠監督の覚悟のほどがうかがえる作品となっている。

 本作の主人公となるのは、離島から家出してきた16歳の少年・帆高と、両親を亡くし小学生の弟と二人暮らしの少女・陽菜。長雨の続く東京で、帆高は“100%の晴れ女”の陽菜と出会い、彼女の天気を操る能力を使ってあるビジネスを始める。しかし、その能力には代償があり……。

 これまで新宿御苑や飛騨などの美しい緑や青く広がる空、星の溢れる夜空など、美しい自然や風景を丁寧(ていねい)に描いてきた新海監督。本作では歌舞伎町のラブホテル街やさびれた古い都会のビルやアパート、その上に重く垂れ込める曇天。どちらかといえば“汚れた東京”を中心に描いている。きれいな理想郷のみを求めるのではなく、汚れた世界を受け入れて生きていくという、この舞台の変化も新海監督の成長であり、挑戦であるといえるだろう。

 そして、主人公たちが選択していく未来に待ち受けるものにも、前作とは大きな変化がある。『君の名は。』では“世界を救おう”とする主人公たち、しかし『天気の子』では“陽菜を救う”ために主人公は“世界の形を変える”。

 なりゆきに任せてただ“世間が期待する”未来を目指すのではない。はっきりと“自分の意志で、自分が希望する未来を選び取る”のだ。たとえ、その未来が観客の期待を裏切るものであったとしても……。

 汚れた街でせいいっぱい「自分らしく生きるため」、曇った街に希望を与えてくれた「彼女を守るため」、世界の形を変えた主人公・帆高の姿は、いわゆる旧来のヒーロー像とはまったく違うものかもしれない。

 しかし、世間に求められるヒーロー像ではなく、自分が自分らしく生きられる道を志向することこそが、多様性が叫ばれるこの時代にふさわしい主人公像とも言えるだろう。帆高と陽菜の二人は、まさに’19年に生きる若者たちの姿を体現する主人公なのかもしれない

大人の娯楽へと深化した
アニメーション映画

 ’19年の夏に公開されたこれらの映画たち。’90年代には子どもだった観客たちが、大人になった今だからこそ味わえる滋味に満ちた映画へと変化している。アニメーション映画のフォーマットは手書きアニメ、3DCGアニメなど、技術の進化にともなって変化し、内容も大人が観ても楽しみ、笑い、涙することができるものに深化しているのだ。

 これらの作品すべてに共通していること。それは登場人物たちが「自分の内なる声」に従い、物語の結末を選択しているということだ。より現代的なテーマを内在させたことこそが、作品たちに共通している魅力ではないだろうか。

 この夏、とても哀しい、許せない事件が日本のアニメーション界に起こった。その事件自体は許されるべきものではないが、それは裏を返せば、日本のアニメ作品がそれだけ人の心を動かす力を持ち、人に大きな影響を与えているということでもある。アニメ作品は世界の形を変える力を持っているのだ

 京都アニメーション、ジブリ、ディズニー、ピクサー。これらのスタジオが作り上げた作品のタイトルをいくつか挙げるだけで、誰もが納得することだろう。新海誠、細田守、湯浅政明、原恵一ら、気鋭の才能がそろった日本のアニメーション映画界は、さらなる躍進が期待されるのだ。

 長い梅雨が明け、やっと「晴れた」青空が顔を出したこの週末、あなたはどのアニメを観に行きますか?

PROFILE
松村 知恵美●まつむら ちえみ●家と映画館(試写室)と取材先と酒場を往復する毎日を送る映画ライター、WEBディレクター。’01年から約8年、映画情報サイトの編集者を経て、’09年に独立し、フリーランスに。ライターとしての仕事のほか、Webディレクションなども行う。