靖雄容疑者とみられる人物。肉を焼く腕には入れ墨(会社のフェイスブックより)
靖雄容疑者とみられる人物。肉を焼く腕には入れ墨(会社のフェイスブックより)
【写真】拓也さんの小学校の卒業アルバムと文集ほか

 県立高校を卒業後、社会人になって実家を出て自立生活をするように。3~4年前から、実家アパートの大家でもある靖雄容疑者の世話になっていた。新しい生活拠点は、実家のすぐそばにある別のアパートの一室だった。

 拓也さん一家と長年、親交のある近所の女性は、その背景についてこう話す。

「社長(靖雄)はつまらない冗談も言うし、生活の苦しいアパート住人の家賃を値引きしてあげるなど太っ腹なところもある。そうした父性に惹かれてか、男の家族がいない拓ちゃんが懐いていたのは確か。父親のいない寂しさにつけ込まれ、安易に養子縁組の提案を受け入れてしまったのかもしれません

母親は事故死ではないと確信

 この女性によると、そもそもの接点は、拓也さんの母親と靖雄容疑者が旧知の仲だったから。数年前、女性が拓也さんの母親から「キムチ鍋パーティーするからおいでよ」と誘われ自宅を訪問したところ、あとから靖雄容疑者が参加したことも。缶ビールを空け、シメのうどんまで楽しい食卓だった。

 地主の家に生まれた靖雄容疑者は、父親名義となっている複数のアパートの管理・運営を任されており、知人に気安く部屋を貸すことが多々あったという。長く住んでいるアパート住人とは家族同様の付き合いをしていた。

「拓ちゃんの母親は、信用していた社長に息子を殺されてどんなに悔しかったか。おそらく当初から事故死ではないと確信していたのでしょう。2月に何も言わず引っ越してしまいました」(同女性)

 翌3月のこと。この女性のところに靖雄容疑者がやってきて、携帯電話が変わったことを告げた。「前の携帯は警察に没収されちゃったから」と捜査対象になっていることをにおわせると、グチるように拓也さんの母親に対する悪口が始まった。

「だってよー。母親が妹ばかり可愛がって、拓也を“おまえなんかいらない”と邪険にするからオレが養子にしてやったんじゃないか。拓也が死んだときだって“拓也が死んだのはいいけど(母親が受取人だったはずの)保険金はどうなってんの?”と、こうだぜ。拓也は従業員だし、オレは可愛がっていたんだからよー」

 母親を強欲呼ばわりする発言は、捜査の手が迫っていることを実感していたからこそ飛び出したのだろう。

 しかし、前出の女性は、その内容を信じていない。

「拓ちゃんの母親がそんなことを言うはずがない。強気な性格なので子どもに厳しい言い方をすることもあったけれど、根はたたき上げの介護福祉士で堅実な女性です。子どもに優劣つけず、愛情を注いでいましたよ。親子3人でよく食事に行っていたし、拓ちゃんが自宅に女友達を連れてきたときは、その子も含めて4人で外食したほど。突然の引っ越しは、社長との訣別宣言だったんだろうと思っています」(同女性)

 靖雄容疑者をまねるように、拓也さんの左腕には入れ墨があった。

 憧れる相手を間違ったとしかいいようがない。