描きたいことは全部描いた

『大家さんと僕 これから』には、一緒にお茶を飲んだりお出かけするふたりの姿や、大家さんの昔話や近所の方々とのエピソード、そして病院でのシーンなど、楽しく笑えるものもあり、しんみり切なくなるものも。

「書き下ろしの部分は、連載を終えてから僕の中で見えてきたものを描きました。ヨーロッパでも描いたんですけど……」

 さりげなく発せられたひと言に、思わず「ヨーロッパ!」と沸く取材スタッフ一同。

「1週間で。単行本化までにプライベートで行くつもりがスケジュールが厳しくなって、ロンドンに向かいながら描いたというのが本当です。みんなは“そんな時期になんで行くんだ”と思っていたと(苦笑)。

 大家さんのお話を聞くのが好きだったのですが、歴史上の出来事だと思っていたことを実際に体験した方から聞けたということもおもしろかったんです。

 それで大家さんからよくイギリスのおいしい紅茶の話を聞いたりしていて、いつか行きたいと思っていたんです」

ライターは見た! 著者の素顔

「今回、“これで本当に最後だ”という思いがあり、描きたいことは全部描こうという気持ちが大きかった」という矢部さん。「もし“ここに描いていない話をして”と言われたら困っちゃうかもしれません」というほどすべてを出しきったという完結編は、ページ数も1作目より大幅にアップ。「大家さんはやっぱりお話がおもしろいんですよね。その大家さんのことを描く漫画は、できるだけユーモアがあって楽しいものじゃないと、とずっと思っていました。最後、“読んでよかった”と思ってもらえたらうれしいです」

『大家さんと僕 これから』矢部太郎=著 新潮社 1100円(税抜き)※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします
すべての写真を見る

やべ・たろう 1977年、東京都生まれ。お笑い芸人としてだけではなく、舞台や映画、ドラマで俳優としても活躍している。2007年には気象予報士の資格も取得。初めて描いた漫画作品『大家さんと僕』で2018年、第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞した。父親は『かばさん』『あかいろくん とびだす』などの作がある、絵本作家・紙芝居作家のやべみつのり氏。

取材・文/長谷川英子