「左側に寄っていて通行の邪魔にもなっていなかったはずです。なのに……」(林さん)

 前出『抱っこひも安全協議会』の担当者は、

「背中にバックルがあるタイプであれば、カバンを背負ったり、上着を羽織ったりして隠したほうがいいでしょう」

 と安全策を伝える。

母子のつながりに不快感か

 しかし、事件を受けて小さな子を持つ母親たちは外出に不安を感じている。『子どもの安全な移動を考えるパートナーズ』の平本沙織さんは、

「誰かが気にかけている、ということが犯罪の抑止力になります。抱っこひもの周辺で不審な動きをする人を見かけたら、“お子さん、可愛いですね”などと声をかけるだけで被害を未然に防ぐことができます」

 とアドバイスする。さらに、

「加害者が手を出しやすい状況は母親がひとりのときです。夫やほかの人がいると手を出されない」(平本さん)

 愛知学院大学の岡本真一郎教授(社会心理学)は、

「反撃する力がない女性を狙ったこと事件だと考えられます。バックルはずしは悪質なイタズラをした可能性も。しかし模倣的に犯行をまねる存在も出てくるかもしれません」

 さらに、何らかのきっかけで爆発したフラストレーションのはけ口が女性や赤ん坊だったのかもしれない。岡本教授は、

「赤ちゃんにも向けられたのは、母子のつながりに対する不快感があるかもしれません」

 と推測する。

 赤ちゃん、母親を狙った卑劣な抱っこひものバックル外し。自衛だけでなく、周囲の優しさが赤ちゃんたちを守る手段となるはずだ。