昨年10月に行ったTNRの事後調査(今年4月)には、フランス国営テレビの取材班も同行
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 しかし、この大規模な不妊手術は困難を極めた。

「5年越しで不妊手術が決まったものの、当初予定されていた9月は台風のために1か月延期。満を持して10月2日に上陸するも連絡船が欠航となり、当初3日間で行う予定を急きょ一昼夜で行わなければなりませんでした」

 島内に宿泊施設はなく、コミュニティセンターで仮眠をとりながら、たった3人の獣医が20名のボランティアスタッフとともに172匹の不妊手術および、ワクチン投与、ノミダニの駆除を行った。

「手術を終えた後、島民の方に、70年間生きてきて今日がいちばんうれしい。ありがとう、と言われたのを覚えています。このひと言で疲れも吹っ飛びました」

 と、佐上さんは当時を振り返った。

「殺処分ゼロ」達成の裏側で……

 こうした『どうぶつ基金』のTNRの取り組みは、年々増えている多頭飼育崩壊でも十分に効果が得られると佐上さんは話す。

「多頭飼育崩壊に陥っている人たちは、まず身近な人やボランティアに相談するケースが多く、ボランティアと行政が緊密に連携できれば、早期の介入が可能になります。

 さらに行政が飼い主のいる猫の手術費用を捻出するのは難しいので、全国の行政に、協働ボランティアに登録申請してもらい、『どうぶつ基金』で手術を行い問題を解決するケースも増えています」

 しかし、行政とボランティア団体との関係にもデリケートな問題があるのだ。ある動物愛護団体のボランティアスタッフは、声を潜めてこう語る。

「私の県では、殺処分数が全国でも上位だったのに、ある年に、いきなり殺処分ゼロを達成しました。でも、根本的な問題は何も解決されていません。

 例えば授乳中の子猫は2時間に1回授乳しなければなりませんが、1匹5分として、200匹いたら1人や2人ではとうてい追いつきません。

 これだけの手間をかけられるだけのスタッフがいる団体は、全国レベルで見てもほとんどないんです。これでは“殺処分ゼロ”といっても、その後の猫たちの安否すら疑わしいと思いませんか? 行政もマスコミも、もっと現実を見てほしいです