まだまだ制度が浸透していない
司法試験合格前に、裁判員を務めた経験を持つ花田弘介弁護士も、解決策は「正しい知識の浸透」だと言う。
「個別具体的な課題や問題の議論も重要ですが、“もっと前の段階”を考えるほうが先だと思います」
そもそも制度自体が国民に浸透していない現実だ。
「そこが、すべての問題の根っこです。ネガティブな情報は取り上げられがち。どうしてもそこに目や耳が向いてしまう。すると裁判員イコール“長い”“難しい”というネガティブな連想をされてしまいますから」(花田弁護士)
参加する意義やメリットがよくわからなければ、「わからないものは、やりたくない」のは本心だろう。
「それがあるうちは、裁判員制度は本当の意味での広がりを見せません。どうすればいいか? いい情報も悪い情報も、どちらも正しく伝えられるのは唯一、経験者だけです」(花田弁護士)
裁判員制度が、国民により広く深く伝わることは裁判官も目標とするところ。
「参加すること自体に意味があるということが、もっと広まるといいですね。そのために私たちも“裁判体”で工夫しながら、努力を続けながら運用していきたいと思っています。制度全体を通じての大きな目的のひとつは、国民のみなさんに司法に対する理解を深めてもらったり、あるいは司法の信頼を上げるということですから」(小森田判事)
「“この前、裁判員を実はやったのよ”みたいな話が気軽にできるようになったらいいですね。経験者が今後どんどん増えれば、事件に対して一方的な見方だけではなくて、いろいろな見方ができるようになったりするんじゃないかな、そういう可能性を持ってる制度なんじゃないかな、と思っています」(村田判事)
制度開始から10年。だが、まだ10年でもある。
「暴力団関係者の“声かけ”事件が起きたり、証拠写真を見てPTSDになったり、というマイナスはたしかにあった。でも、それらはマイナスだったけれども、次のステップへの課題ともいえる。裁判員制度全体で考えたとき、それがいま認識できたことは、決して悪いことではなかったと思います。人間の10歳なら回り道や間違いがあるもの。これからみんなで育てていかなければ」(四宮教授)
そして、こう言葉をつなぐ。
「いまの裁判官や法律家たちは、法律家になったときから裁判員裁判が当たり前。それは制度開始以降に生まれた一般の人たちもそうです。最初からあったかどうか、というのは意識のうえで大きな違いがありますから。その人たちが、よりよいものにしていってくれたら。そのためにも経験者の声を、もっと共有できるといいですね」
本当の成果は、これからの10年にかかっている。