知らなかった夫の年収を確認し養育費を約束

 親権者は非親権者に対して養育費を請求することが可能です。千穂さんは結婚から現在まで、夫は自分の年収を教えなかったので、妻なのに夫の稼ぎを知らずに暮らしてきましたが、養育費を決めるにあたり、夫の年収を確認する必要があります。役所の窓口で夫は妻の、妻は夫の所得証明書(課税証明書)を申請することが可能です。千穂さんは役所へ出向き、夫の所得証明書を手に入れたところ、夫の昨年度の所得は1400万円(自営業)だということがわかりました。

 養育費については、家庭裁判所が公表している養育費算定表にお互いの年収をあてはめて計算するのが一般的です。家庭裁判所の調停委員が家庭裁判所の基準を採用しないわけはないので、調停委員は夫に対して算定表の金額を約束するよう説得してくれたそうです。

 千穂さんは無収入なので子2人の場合、養育費は月30万円、子1人の場合、月20万円が妥当な金額です。法律上、父親は実子だけでなく養子に対しても扶養義務を負っているので、父親が実父でも養父でも本来、養育費を支払わなければなりません。もちろん、養子と離縁すれば扶養義務はなくなるので養育費を支払う必要はありません。

 夫はもともと娘さんに対する愛情は薄く、興味関心がなく、単なる同居人という感じでした。養子縁組を継続してまで娘さんへ養育費を支払うつもりはなく、月10万円の養育費を浮かせるため、娘さんと離縁することに何の躊躇(ちゅうちょ)もありませんでした。そんな薄情な夫を前にして千穂さんも離縁を決意したのです。

DV証拠の破棄などを条件に慰謝料を要求

 慰謝料とは精神的苦痛の対価を金銭で補償するものです。千穂さんは夫の異常性格、虚言癖、そして攻撃性に悩まされた結果、心療内科で適応障害と診断され、定期的な通院と投薬を余儀なくされています。結婚生活の中で多大な苦痛を強いられたのだから、夫には慰謝料という形で償ってほしいと思うのは当然です。特に今回の場合、千穂さんはDVされた当日、夫の罵声をボイスメモに録音し、夫が破壊した皿などを撮影していました。現行犯ではないとはいえ、これらの証拠を警察署に持ち込み、相談することは可能といえば可能です。

 しかし、千穂さんにとって最も大事なのは当座の生活費です。なぜなら、離婚が成立しても当面の間、働くことは精神的に難しいからです。そのため、DVの証拠の破棄と秘密の保持と引き換えに慰謝料を払ってほしいと頼んだところ、調停委員は、夫から200万円の慰謝料を一括で支払うという約束を取りつけてくれたそうです。

 両親の都合で子どもの生活、住居、教育環境をコロコロと変更すれば、情緒の安定、人格の形成、そして学力の向上に悪影響を与えるのは間違いありません。結婚するとき、娘さんは転居と転校をせざえるをえなかったのですが、離婚するときに再度、転居・転校させるのは不憫です。住んでいた賃貸住宅の家賃は月20万円で養育費と同額だったので、養育費を現金で受け取るのではなく、夫が家賃を支払い、妻子が現在の住宅に住み続けるという形をとり、娘さんの心の傷を最小限にとどめるよう配慮をしました。とはいえ千穂さんは無収入のままなので、200万円の慰謝料が底を尽きる前に社会復帰し、仕事を見つけ、収入を得られるようにする必要があります。