住民が被ばくリスクの知識を得て語り合うことが大事だと、伊藤さんは測定を続けてきた。だが、「まるであの事故の放射性物質は無害だと国も自治体も言わんばかり。危険とは絶対に言わない」と訝しく思う。

「村のお知らせでは“野生のきのこは食べないで”とは書かれていますが、“食べるとどうなるのか”までは書かない。細かく情報提供しなくては、人々は注意しません」(伊藤さん)

台風で移動するホットスポット

 '17年春には、福島県の避難指示区域の3分の2が解除された。伊藤さんをはじめ、帰還政策に反対した住民は少なくない。避難指示解除に伴う住民説明会では、いくつかの町で「ダム底にたまった放射性物質が台風などで攪拌されるのでは?」との声が住民からあがっていた。実際、ダム底の土砂から数千〜数十万ベクレル/キログラムが検出されている。

 台風15号、19号、21号は、洪水・土砂崩れなどを引き起こし、福島県も大きな被害に見舞われた。楢葉町では、台風19号が通過した10月13日から水道水の濁りが発生、飲用は控えるよう広報され、飲料水が配布された。当然、「ダムの放射性物質は大丈夫か」と考えた住民もいた。なかには安全性を懸念してペットボトルの水を買い続ける人もいるほど、水の安全は住民にとって大切な問題だ。

 双葉地方水道企業団は「飲用基準の濁度(濁りの程度)は2度だが、台風の影響で5度ほどの濁度があり、飲用を控えてもらった」と説明。幸い、台風後の水道水から放射性セシウムは検出されなかった。検査結果は水道企業団のホームページで公表したが、ネットに不慣れな人には届きにくい情報だ。

台風19号の影響で水の濁りが悪化、それに伴い町が配布した飲料水
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 台風の影響はまだある。山の落ち葉や木の枝が流されたのに伴い、放射能汚染は移動していた。『国際環境NGOグリーンピース・ジャパン』は、台風19号に見舞われた直後の10月16日から11月5日まで、福島県の放射線量調査を実施(来年3月にホームページで公開予定)。

 山林は除染されていないため、流れた枝葉に付着した泥の影響か、新しくできた吹きだまりの放射線量が高かった。調査に参加したエネルギー担当の鈴木かずえさんは、「乾いた泥のまきあがりに注意してほしい」と語る。

 なかでも三方が藪に囲まれた浪江町苅野小学校は、避難指示解除された地域。除染ずみの道路脇を計測すると、放射線量は地表10センチで毎時2・2マイクロシーベルトと、事故前の約50倍だった。児童数が足りず閉鎖中とはいえ、以前の測定では存在しなかったホットスポット(周囲に比べ放射線量が相対的に高い場所)が新たに見つかったことは、見過ごせない。

 グリーンピース・ジャパンでは原発事故後、海洋汚染の調査も続け、汚染水海洋放出反対の署名も行っている(12月9日まで)。鈴木さんは、これまでの測定結果から「移動のメカニズムは解明されておらず、偶発的に汚染度が高まる可能性は今後もゼロではない」と、海と陸のホットスポットの移動を懸念する。