原子力災害のなかで暮らすということ

汚染土を詰め込んだ黒い袋が山積みにされたすぐ側で農作業が行われている
汚染土を詰め込んだ黒い袋が山積みにされたすぐ側で農作業が行われている
【写真】汚染土が山積みされた場所のすぐ横にある農作業場も

 原発事故後は、放射線量の測定が必要な暮らしになった。全国約100か所に市民測定所が作られたのは、行政の測定では不十分だったからだ。

 市民団体『みんなのデータサイト』は、全国の測定所による食品・土壌汚染データを統合して公開。それをもとに昨年、『図説 17都県放射能測定マップ+読み解き集』を発行すると、1万6000部が売れた。

 事務局長の小山貴弓さんによると、いま気をつけるべき食材は「山菜、ジビエ、きのこ」と、やはり野生の食品名が返ってきた。イノシシ、鹿、クマなどは、岩手・宮城・山形・福島・新潟・栃木・群馬・茨城・千葉の一部で出荷制限が続いている('19年4月15日、農林水産省発表)。

 書籍は英訳され、海外メディアの取材が相次ぐなか、小山さんは取材者から驚かれることがあると話す。

食品の放射能検査が国の主導ではなく、自治体任せであること。国の無責任さによく驚かれます。厚労省が発表する数値も自治体から吸い上げたもの。しかも、公表データの8割が牛肉。日常の食卓の内容とかけ離れていて、市民が知りたいデータではないんです」

 例えば、キノコの出荷制限がかかっている地域の中に、検査をしていないため規制なしという自治体が抜け穴のように存在するケースがある。そこだけ汚染されていないとは考えづらいが、厚労省から該当地域へ検査を促すことはない。

 出荷制限の情報の出し方もわかりにくく「ホームページをくまなく調べ、丁寧に分析・解析した人だけへのご褒美のような出し方」と小山さん。出荷制限の情報を扱う厚労省のホームぺージには、トップ画面に「安心・安全」を謳うパンフレットを大きく載せている。

「国がちゃんとやってくれると思う人が多いけれど、残念ながらそうなっていない。だから私たちはデータというファクトで事故の被害を訴えているんです。チェルノブイリでも、事故から10年後くらいに気がゆるみ、人々が汚染の残る食材を食べて体内の放射能濃度が上がったというデータがある。日本でも同じことが起こるのではないかと心配です」(小山さん)

 二本松市の放射線アドバイザーで、新潟県の原発事故検証委員でもある獨協医科大学国際疫学研究室准教授の木村真三さんも警鐘を鳴らす。

「放射能汚染は簡単にはなくならない。隠すのではなく公開することで、対策をとり、安心を得ることが大切です」

 今年9月、静岡県小山町で採れたキノコから基準値を超える放射能が検出された報道があり、原発から300キロ離れた地域でもいまだに汚染は残っていることを木村さんは痛感した。 

台風直後に汚染調査を行ったが、汚染は下流へ流れていくことがわかるものの、どういう動きをするのか専門家でも想像がつかない。長期的な調査が必要と話す。

 海への汚染水放出についても木村さんは反対する。

「トリチウムだから流していいという話ではない。生物濃縮しないという話があるが、それを否定する研究もあります。海の浄化能力に依存しているが、原発を持つ国だけが地球を汚し、多くの国々へ犠牲を強いるのは思い上がりです。ひとたび原発事故が起きると汚染は広がり、時間がたってもなかなか消えない。そのなかで暮らす困難さ、それが原子力災害なんです」

(取材・文/吉田千亜)


吉田千亜 ◎フリーライター。福島第一原発事故が引き起こしたさまざまな問題や、その被害者・被災者を精力的に取材している。近著に『その後の福島 原発事故後を生きる人々』(人文書院)がある