自分だけでは癒せない不安や恐怖

『ライオンのおやつ』の舞台であるホスピスは、「ライオンの家」といい、マドンナという女性が取り仕切っています。

 ホスピスでは、人生でいちばん楽しかったときを描いてくれる似顔絵セラピーさんや音楽セラピーを行うカモメちゃん、そしてセラピードッグの役割を果たす六花(ろっか)などが雫の心を癒します。

「死への不安や恐怖って、自分だけでいてもなくすことはできなくて、誰かがいて寄り添ってくれるときの体温であったり、六花のぬくもりや、可愛い仕草とか、そういうものでしか癒されないのかなと思います。死を前にした人にとって、それはとても必要なものじゃないのかな」

 舞台はホスピス、33歳の女性が死んでしまう……というと重苦しい物語のようですが、『ライオンのおやつ』は優しいユーモアにあふれています。ホスピスの入居者たちも個性あふれる面々でわがままだったり、ひょうきんだったりします。

「死をテーマにするというと、どうしても重々しかったり、湿っぽいようなものになりがちなんですけど、そうではなくて生きている喜びのほうに光が当たるような作品にしたいなと思って注意して書きました。

 最初、ホスピスというのは、整然と淡々として自らの死を受け入れて人々が死んでいく場所だと思っていたんですけど、ターミナルケアの先生にお伺いしたら、たとえホスピスに来たからって、運命を受け入れられなくて、じたばたする人もいるし……ということをお話してくださって、ああそうなんだな、と。

 確かに、余命宣告はされたとしても、それでもまだ残りの人生というのはあって、そこには日常的な喜怒哀楽もあるんですよね」

「ライオンの家」の入居者がリクエストするおやつはさまざまです。カヌレ、豆花、アップルパイ、ミルクレープ……。

「この人だったらこれかな? っていうのは自然に決まっていきました。ただ、本が出てからいろんな方に思い出のおやつを聞く機会があって、書店員さんですとかサイン会に来てくださった方のおやつのリクエストを聞いていると本当にいろいろなおやつがあって。

 そういえば、本の中にしょっぱいおやつが出てこなかったなあと思いました。選択肢としてこれもあったのかなあ……なんて」