生命保険で困っている人もたくさんいる。

「高齢者の多くは、生命保険の受け取り先を夫婦にしています。ところが、保険をかけたことを、片側が相手に伝えていない場合も多いのです。今は寿命が延び、終身保険をかけ終えても保険金が出るのはずっと後です。

 そのあいだに認知症になったら、かけていることを忘れてしまいます。相手に保険のことを知らせていなければ、受取人は請求できません。保険は請求しないともらえませんが、かけたことを忘れて請求されない保険金が多く、問題になっているのです。でも、親がかけた保険を子どもが覚えていたら、本人の代わりに請求できます」

 デジタル社会になって証書のようなものが消えたために、暗証番号がなければ誰もデータにアクセスできなくなったことも悩ましいという。

「パソコン上だけで株の売買などをやっている方がけっこう多くいます。これも、パスワードが分からなくなったら株を動かせません。今、流行の仮想通貨もそうです。

 ですから元気なうちに、エンディングノートには株や通帳と一緒にパスワードも書いておくことです。このとき、印鑑の照合もしておいてください。通帳やカードをたくさん持っている人もいますが、2つぐらいにまとめて、内容を書いておきましょう

 最近は銀行もWEB通帳をしきりに勧めるが、暗証番号や口座番号を家族に教えていないと厄介だ。

エンディングノートは介護のヒントにもなる

 親が認知症になったときのことを考えると、親自身の気持ちや思いを書き残しておくことがもっとも重要だという。

「ほとんどのエンディングノートには、好きな場所や好きな物を書く枠があります。そんなことは人に教えるもんじゃない、と思われる人が多いのですが、実は、それが認知症になったときの手がかりなるのです。特に、すごく怖かったことや嫌だったことなどは、書いておいたほうがいいですね。

 エレベーターに乗ると不穏になる認知症の方がいました。昔、納屋に閉じ込められたことがトラウマになっていたようで、それが認知症になってあらわれることがあるんですね。エレベーターが怖いとわかれば、エレベーターに乗らなくてもいい施設を探せばいいのです。普段なら苦手なことはうまく隠せても、認知症になると誰かに頼ることになり、知らずに嫌なことをされることもあるのです。  認知症の親に毎日手こずらされている、という家族は、よかれと思って、実際には本人がすごく嫌がることをしているのかもしれません。“(認知症患者が)困ったことをする”、と家族がこぼす場合、知らないうちに本人につらい思いをさせていることが多いのです。施設に入所するときも、何が嫌かを伝えないと、施設の人は知らずにやってしまいます」

「楽しい」や「恥ずかしい」といった感情は、認知症の症状が進んでも元気なころと同じだ。よく施設でお風呂に入るのを嫌がる方がいるが、誰だって他人がいる前で裸になるのには恥じらいがある。認知症になっても嫌なものは嫌なのだ。そういう人でも、大好きな孫と一緒に家族風呂なら入る。気分がいいからである。