生前、この女性は元気がよくお節介な性格だった。お節介がいきすぎて、近所の住民から迷惑がられ、クレームを受けたこともあった。それでも社長は女性が毎年、物件の庭の草むしりをしてくれるので助かっていた。しかし今年は珍しく店舗にやってきて、もう無理だと訴えたという。

「身体が動きづらいから、草むしりは業者さんにお願いしてね」

 女性はいつもと違って気弱に社長にそういった。家賃を手渡しに訪れる女性が何だか元気がないようで、数か月前から気にかかっていた。

エアコンの温度が初期設定のまま

 上東さんは熱気と腐臭の中、黙々と部屋の片づけをしていく。なぜだか、この古びた部屋とちぐはぐな最新型のエアコンに目が行った。

「設定温度は25度だったから、取りつけた当時の初期設定のままだったはずだよ」

 と上東さんは語る。

 2018年の夏は、すさまじい暑さだった。女性は生活保護を受給していた。その一環で行政関係者に相談し、エアコンを取りつけたらしい。しかし、電気代は自腹なので、エアコンはほとんど使っていないようだった。女性のように、エアコンがあっても、電気代を気にして使用していなかったという孤独死者は多い。高齢になると暑さ・寒さを感じる能力が低下するという。少しぐらい暑くても我慢しようとする心理が、命に関わることもあるのだ。

 孤独死は圧倒的に夏場に多いが、その多くがエアコンのない家か、あっても壊れているか使われていない。異常とも言える猛暑が、体力の弱い高齢者や、体力を温存できる快適な環境設備が整えられない人の命を、孤独死という形で容赦なく奪っていく。私はそれを毎年のように取材で見せつけられている。もし、エアコンを日常的に使っていたら、女性は助かったかもしれないと感じた。

 2019年の夏はそれほどの暑さではなかったものの、雨の日が多く、エアコンがない室内だと、ジメジメとしてサウナのような状態だったのだろう。