どん底を支えてくれた恋人

 そして、事故から2年あまりが経過した2019年12月に、初めてのエッセイ『歩 ―僕の足はありますか?』(小社刊)を上梓。ブログで発表したことも含め、生い立ちから芸能生活、衝撃的な事故、家族との軋轢、葛藤、リハビリなど事故後の生活について、率直に語っている。この著書は、障害を受け容れ、前を向く著者の姿勢が、読んだ人を勇気づけると各方面で大きな話題となった。

 しかし、その中では触れていないことがあった。忘れられない、あるひとりの女性についてである。

 滝川さんには、かつて結婚を意識した恋人がいた。多忙で不規則になりがちな生活をサポートし、疲れを癒してくれる存在だったという。

 常々、俳優という職業の不安定さを感じていた滝川さんは、それまで結婚願望をまったく抱いていなかった。だが、家庭的な恋人との心休まる日々を経て、ドラマの撮影が終わったら両親へ紹介しようと決意をする。事故が起きたのは、その矢先、クランクアップ目前のことだった。

 大ケガを負って身動きもままならない中、家族や事務所の関係者に加えて恋人が毎日のように見舞いに訪れ、献身的に世話をしてくれた。ともすれば絶望しそうな状況で、恋人の存在がどれほどの癒しになったかは、想像に難くない。が、時がたつにつれ、滝川さんの思いに変化が生じていく。

彼女が残していたメモ。傷を早く治すメニューなど、栄養面でもサポートしてくれていた
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「事故からしばらく経過して、ようやく自分の身体の現実を自覚できるようになってきました。それまでは、ひたすら『彼女と一緒に幸せになりたい』と思っていた。でも、だんだんと『彼女に幸せになってほしい』と願うようになっていたんです」

 年若い彼女にはまだ経験していないことがたくさんある。これから、もっと広い世界に飛び出し、たくさんの経験をしてほしいと思い始めていた。恋人の自由を奪っているかのような自己嫌悪にとらわれ、徐々に衝突することがふえ、会話も減っていったという。

 リハビリを行う病院に入院中、障害のある人たちと「一緒に歩こう」「頑張ろう」と励まし合うことが、滝川さんが前を向く力になった。同時に、「誰かと一緒に歩く」ことがどれだけ大変でつらく、切ないことかも知ったという。だからこそ、恋人と一緒に歩く道は選べなかった。誰よりも大切だからこそ、ともに歩く未来をあきらめざるをえなかった。こうして、事故の後初めての春を迎えるころ、恋人との交際にピリオドを打ったのだった。

 このころ、滝川さんは友人の難波さんに「俺、こんな(状態)だからさ……」と言い、しばらく落ち込んでいたという。

「本を執筆中は、〈俳優・滝川英治〉として、プライベートを明かすことに迷いがありました。でも、今、俳優としてひと区切りをつけようと思ったとき、直接は言えないけれど、もう1度彼女に、心から『ありがとう』と伝えたいと思ったんです」

 晴ればれとした表情で、滝川さんは恋人への感謝の思いを語った。