【批判・非難・文句】の境界線は?

 このツイートは森氏への「誹謗中傷」に当たるでしょうか。「政治家は公人だから、どんなことでも言っていい」というのは間違いだと思います。公人でも有名人でも、ひとりの人間としての存在がまずあります。その上でポイントは「内容に相手を傷つけようとする意図でなく、きちんとした批判性があるかどうか」でしょう。では「批判」とは、そして「批評」とは何か。改めて広辞苑をひきます。

【批判】とは「物事の真偽や善悪を批評し判定すること」
【批評】とは「物事の善悪・美醜・是非などについて評価し論ずること」

 この「論ずる」という部分がポイントだと思います。前述のツイートの背景には「黒川検事長が辞めるだけでこの問題を終わりにしていいのか」という意識がありました。賭けマージャンだけならまだしも、検察庁法改正案の問題、内閣による法律の解釈変更にまつわる問題もあります。森氏自身の失言もありました。責任をとって誰か閣僚も辞任するならば、やはり法務省トップの森氏でしょう。そこで先ほどのツイートをしたわけですが、結果として【批判】よりも「皮肉」「文句」の色合いが濃かったと感じています。そこは毎回、検討しなければならないところだと思いました。

 政権を批判する記事やツイートは「人の非難ばかりしてどうなる」「文句を言っても始まらない」などという指摘を受けることがあります。これら【非難】や【文句】といった言葉も、使いわける必要があります。広辞苑に戻ります。

【非難】とは、「欠点過失などを責めとがめること」
【文句】とは、「相手に対する言い分や苦情」

 思い当たる節があります。先日、小学生の息子から「体育の授業でマスクをしながら運動した」と聞き、こんなツイートをしました。

《子どもが久しぶりに小学校に行ったら、体育の授業があり、マスク着用のまま体操をしたそうだ。結構息苦しかったらしい。今そこまでして体育をやる意味はあるんだろうか…》
──牧内昇平・朝日新聞 (@makiuchi_shohei) May 18, 2020

 これは【批判】【非難】【文句】のどれにあたるか。例えば「学校ふざけんな」とツイートしたら【非難】に当たるでしょう。熱中症など健康面における懸念点を丁寧に指摘すれば、正当な【批判】であるはず。実際のツイートを振り返ると、その【批判】に十分な客観性があったとまでは言えず、【文句】に近い状態だったと思います。

 SNSにおける表現の「さじ加減」は難しいところです。特に、ツイッターは最大140字という非常に短い文字数制限があり、だからこそ大多数が気軽に見たり発信したりできるというメディアなので、あまり四角四面(考え方などが生真面目で堅苦しいこと)な内容でも伝わりにくい場合があります。

 誰かが発信した手短でわかりやすい【文句】によって、その問題に多くの人の目が向けられることは否定すべきではない。ただ、それに対して周囲も同じような【文句】を重ねて続けていくだけだと、誰かを傷つける【誹謗中傷】という方向に流れていってしまう心配があると思います。

 とある【文句】を入り口にして、その背景は何なのかを考えて「論じる」方向に向かえれば、SNSのいい意味での可能性が広がるはずです。例えば、検察庁法改正案に関しては“そもそもどこが問題なのか”という点がツイッター上でも議論されました。野党議員による法案の解説が、何度もリツイートされました。これは人々の【文句】が【批判】の形で展開され、実際に世の中の変化につながった好例と言えるでしょう。