コロナの影響から自宅にいる時間が増えた人は多い。生活の場が心休まる場ならいいが、そうではない人もいる。

「道路族」という言葉をご存じだろうか。明確な定義はないが「自宅周辺の道路で人の迷惑を考えない行動をする親と、その子ども」を指し、ネット上では批判が絶えない。騒ぎ声がうるさい、花壇を荒らす、自転車で暴走する、車を傷つける、家に上がり込むなどの被害が指摘されている。ひどいものでは精神的被害による服薬治療や引っ越しを余儀なくされるなど、人生を変えられてしまった人もいる。

 今野綾子さん(仮名)は10年前に袋小路道路を囲む新興住宅地に自宅を購入。周辺の12世帯も同時期に入居した。乳幼児がいる共働きの世帯が多く、町内会役員は当時、小学生の息子を持つ今野さんが引き受けたが、その後は毎年、役員を押しつけられる流れになった。夫が手術・入院中も役員の仕事で苦労し続け精神的につらかった今野さんは3年後に町内会を脱退した。同じ時期から今野さんへの無視が始まり、また、周辺住民が親子そろって道路で遊ぶことも盛んになった。

苦情を言ったら村八分に

 以前は幼稚園の近くに住み、子どもの声が煩(わずら)わしいとも思わなかった今野さん。だが、密集した戸建ての室内には、クルマ型の乗用玩具の音、子どもたちや母親の騒ぐ声が想像以上に響く。鬼ごっこやボール遊びで庭に入り込み、花が傷むこともあったが、付き添いの母親は注意することもなかった。受験を控えた息子のため、窓を閉めきり耳栓でしのぐ生活に、今野さんは食欲が失(う)せ不眠が続いた。

 何度か話し合い、「迷惑にならない程度の音で遊んでください」と夫は頼んだが、周辺住民は「町内会員以外は意見を言う資格はない、騒音に該当しない」と繰り返す。

 それからは徐々に嫌がらせへと発展。陰口を言い合う母親の声も室内まで聞こえた。逃げるように毎日外出していた今野さんは心療内科へ通院するように。それでも近所の人と顔を合わせれば挨拶をしていたが、無視は続いた。

 やがて嫌がらせはエスカレート。ある住民男性は無言でにらみつけ、バイクや車のエンジンを吹かして通り過ぎるようになった。暴言を吐かれ、脅迫状すら届く。「山の中に引っ越せば」「病気を盾にした自己中」と言われ、夫が家の前で住民に取り囲まれ警察ざたになったときには「今野さんがうるさいと怒鳴ってきた」と嘘をつかれた。

 薬は強くなり量も増え、ついに救急車で搬送された。堪えかねた今野さんは'17年3月、警察に告訴状を提出。住民男性は迷惑防止条例の違反容疑で書類送検、略式起訴され罰金30万円が科せられた。現在は民事訴訟が係争中だ。

 今野さんの代理人・豊福誠二弁護士は「これは村八分。誰か1人でも分別があれば、こうはならない」とあきれる。多額のローンを組んで家を買った人は、逃げ場がない。

「道路族という言葉は強烈な印象がありますが、今野さんのケースは当てはまるように思います。社会の自己修復力が働かない場合は第三者に相談するしかありません」