素顔を見せない『ずっと真夜中でいいのに。』

 次に「夜」という言葉を取り入れているユニットというと『ずっと真夜中でいいのに。』、通称「ずとまよ」と呼ばれ、女性ボーカルの「acaね」が主催するユニットだ。人気ボカロ作曲家の「ぬゆり」との共作となったデビュー曲『秒針を噛む』がいきなりヒット。注目のアニメーター「Waboku」が制作したMVも人気を集め、現時点でYouTubeでの再生回数は5800万回を超えている。

 acaね自らが作詞作曲を手掛ける“ずとまよ”の曲は「ボカロっぽさ」を上手に取り入れた名曲が多い。実際に「100回嘔吐」などのボカロプロデューサーともコラボしている。トラックだけでなく、ボーカルアレンジにもこだわっており、コーラスワークも楽しむことができる。時折、多重コーラスで無機質さを出しながら声に厚みを持たせ、しかし肝心のサビでは声を強く張り上げる。キーの高いacaねの声はとても鋭利で一度聞くと耳から離れない。

このまま奪って隠して忘れたい》(『秒針を噛む』)

隣にいなくてもいいよ いいの いいよって 台詞を交わしたって》(『脳裏上のクラッカー』)

 メロディーのアップダウンに合わせてインパクトのある歌詞を歌い上げるスタイルは、その高い声とテンポの速さが高揚感を出し、気持ちが盛り上がってしまう仕組みだ。

 ずとまよもヨルシカと同じく素顔を出していない。ライブも敢行しているものの、あえて逆光になるような照明、そして薄いカーテンを用いるなどして顔が見えないステージ演出をしている。それでもファンはそのことについて決して文句は言わない。今年の8月には新作アルバム『朗らかな皮膚とて不服』がリリースされるずとまよ。これからもその活躍が期待される。

YouTubeを爆走する『YOASOBI』

 最近テレビでも取り上げられた新鋭のユニット『YOASOBI』にも名前に夜という言葉が使われている。YOASOBIはボカロ出身のプロデューサーの「Ayase」とソロで活動していた「ikura」が結成し、サウンド面はボカロ出身のプロデューサー特有の疾走感のある鍵盤音が特徴。また、ikuraのボーカルもとてもスムースで安定しており、時折ボカロかと思わせるような歌い方もする。

「小説を音楽にするユニット」というコンセプトを謳っており、実際に小説投稿サイト『monogatary.com(モノガタリードットコム)』の投稿作品を楽曲に反映させた作りが話題となっている。昨年11月にリリースされたデビュー曲『夜に駆ける』は物語『タナトスの誘惑』というネット小説に基づいて作詞された。

 多くの反響を呼んだ『タナトスの誘惑』は自殺願望のある女性に恋をしてしまった主人公の短編小説である。女性に感化された主人公が死に魅入られる描写はぞっとするような恐ろしさがあるが、彼女を想う主人公の健気な姿に胸を打たれる。

 まさに駆けるようにテンポが速く、とても聴きやすい『夜に駆ける』のMVは、原作の『タナトスの誘惑』をアニメ化した形に仕上がっている。暗いストーリー、ポップな画風、疾走感のある音楽、それぞれを楽しむことができ、ファンは魅了され、YouTubeでは、すでに3200万回以上も再生されている。

 YOASOBIは素顔を公開しているものの、やはりMVはアニメーションがメインとなった作りで、前者2組と共通している部分がある。