怪談師・吉田悠軌さんが語る
『青い作業着のおじさん』

「私は霊感がないので、体験したことはありませんが空気感が違う、と感じることはあります。怖い体験をするのは私ではなく、私の周囲の人なんです」

 埼玉県のとある廃村に行ったときのことを話しだした。

「今、廃屋はだいぶ崩れていますが当時は食器やらカレンダーやら生活の痕跡も残っており、怖い雰囲気があった場所でした。帰宅後、1週間くらいして廃村を訪れたメンバーと飲み会をしたんですが、そこでメンバーの1人がポツリと言いました。

昨日、変な夢見ちゃってさ

 夢の中で廃村に行ったときに撮影していたビデオの編集をしていたそうです。

 ある場面で“あれ、なんかおかしいな、変なもの映っているな”と思い、拡大。すると木の上に両方の目がない、眼球のあるはずのところがぽっかりと黒い穴になっている青い作業着を着たおじさんが座っていて“ワッ!”と、驚いて目が覚めた。

 その話を聞いたとき、その場にいたみんなが“えっ”となったんです。というのも、実は同じ日の同じ時間にみんな同じような夢を見ていたんです。舞台は1週間前に行ったあの廃村でした。

 ある人は夢の中で“変な視線を感じるな”と思って見てみると井戸があった。確かに廃村に埋められた井戸がありました。すると、夢の中でその井戸から手がのぞいていて、見てみると目玉のない青い作業着を着たおじさんが身を乗り出して、びっくりして目が覚めた。

 ちゃぶ台のある大きな家の夢を見た人はそのちゃぶ台の上に同じおじさんが正座していた。

 全く同じ日の同じタイミングでほぼ似たタイミングで目のない青い作業着を着たおじさんが出てくる夢を見ているんです。

 ただ、私だけはそのおじさんの夢を見ていないんです。というのも徹夜でマージャンをしてたんですね。寝ていたら見ていたかもしれないですが……」

 もしかしたら、吉田さんの寝てない日を狙っておじさんは現れたのかもしれない。

 その後、何かが起きることはなかった。再び廃村を訪れてもおじさんは出てこなかった。

PROFILE●吉田悠軌(よしだ・ゆうき)●怪談サークル「とうもろこしの会」会長。怪談の収集やオカルト全般を研究。『怖いうわさ ぼくらの都市伝説』シリーズ(教育画劇)、『恐怖実話 怪の残響』(竹書房)など著書多数。執筆のほか怪談ライブや講演も行う。