ディズニーのキャストになることが夢

 あらゆることに興味関心がある、と山崎は言う。

「特にディズニーに関してはオタクです(笑)」

 今でもディズニーリゾートのキャストになるのが夢だ、と彼は楽しそうに笑う。

「それは小学生のころからずっと言い続けてる夢です。キャストというのは、いわばアルバイト労働者なんですが、エンタメの要素があるもので直接、人を楽しませる仕事がしたいという気持ちがずっとあったんです。それをやり残したから、就職しなかったというのもあるかもしれない。だから、『こども六法』まわりの仕事が一切なくなったら、早くディズニーの仕事に入りたい(笑)

 山崎は自身の成人の日も、自分をいじめた同級生に会いたくなくて成人式に出席せずにディズニーシーにいた。

子どものころにいじめられた経験のある人で、成人式に出られない人は多いと思います。僕は、ディズニーシーでひとりでカクテルのチャイナブルーを飲みながら、“よっしゃ、いじめなくすぞ”と思っていました(笑)」

 彼の言葉からは常に、「人を楽しませたい」「救いたい」「誰かの役に立ちたい」という純粋な思いが立ち上ってくる。

 7月の半ば、私たち取材班は東京・日暮里にある「d倉庫」で開催された『Way of Life』というイベントのステージに立つ山崎を見た。「舞台の未来を繋ぐ」をテーマにしたライブとシンポジウムで、約1週間、昼夜日替わりでゲストが出演する。主催は、彼が運営するArt&Artsだ。

コロナ対策をして行われたライブ&シンポジウム『Way of Life』。日替わりゲストの本格的な歌唱も楽しめて、ミュージカル界の現状や裏話トークは笑いがあふれていた 撮影/齋藤周造
コロナ対策をして行われたライブ&シンポジウム『Way of Life』。日替わりゲストの本格的な歌唱も楽しめて、ミュージカル界の現状や裏話トークは笑いがあふれていた 撮影/齋藤周造
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 今、演劇界は新型コロナの影響により、大打撃を受けている。8月に山崎自身が企画したコンサートも中止を余儀なくされた。

 今回のd倉庫でも、本来は学生サークルの演劇が開催される予定だったが、中止が決まった。だが、劇場のキャンセル料はかかってしまう。それならそこで何か開催しようと、急きょ、1週間前に決めたという。

「僕は走りだしてから考えるタイプで、周りの人を巻き込んじゃうんですけど。このイベントは、社会貢献の意味もありましたし、しばらく舞台に立てていない俳優たちに、舞台に立つことでギャラをもらう経験を久しぶりにしてもらいたかったんです」

 山崎も毎日、舞台に立って歌った。『ノートルダムの鐘』より選んだ『陽ざしの中へ』は、柔らかく豊かな声量で、彼のやさしさがにじみ出るような歌声だった。

 歌い手としてソロコンサートも行ってきた彼だが、今年の5月には、相棒のピアニスト・井村玲美さんと結婚。

「彼女がそろそろスマートフォンの機種変更したいんだけど、せっかくだから家族割にしたかったんで……」と笑わせた。「家でも嫁さんがピアノを弾いてけっこう歌いますね。非常に厳しくミスを指摘されてますよ(笑)」

◇  ◇  ◇

「売れない要素コンプリート」だった、20代半ばの無名の著者の『こども六法』は、「そうとう強気だね」と嫌味を言われた初版の5000部から、今や大きな社会現象にまで発展した。

「これを読んでくださる方たちは、ただの購入者じゃないんです。子どもいじめ問題を減らしていくんだ、という僕らのメッセージに共感してくれた、賛同者なんです」

 目標は、日本中のすべての教室に1冊ずつ置かれること。一時的な大ヒットではなく、子どもたちの手の届くところにずっと置かれる辞書であってほしいと願う。

「虐待やいじめを完全になくすことはむずかしくても、それをストップさせる社会の雰囲気を作っていきたい。僕がここまで来るまでに、本当にたくさんの人たちの支えがありました。この『こども六法』で得た経験で、今度は自分と同じようにやりたいことを抱えている人たちをサポートしていきたい。そしたら、世の中がもっとよくなっていくと思うんです」

 山崎はてらいもなく、まっすぐに言い放った。理想を現実にする豊かな発想と強い信念がそこにあった。


取材・文/相川由美(あいかわ・ゆみ)/音大卒業後スタイリスト、音楽雑誌編集者を経てフリーライターに。雑誌『JUNON』を中心に人物インタビューを得意とする。また、『尾木ママの「叱らない」子育て論』、(尾木直樹著)、『脳性まひのヴァイオリニストを育てて』(式町啓子著)など、育児、教育に関連する書籍の構成を多く担当。家族は娘1人と猫のうみくん。