親の理想とは真逆の今

 13歳の図書室でのひらめきから、実に12年の時をかけて、実現した『こども六法』。

 その純粋な情熱と問題意識は、どこから生まれてきたのだろうか。子どものころの家庭環境を聞きたいと思った。

『こども六法』の制作は困難を極め、挫折しかけたという。「誰かほかの人が作ってくれるなら任せたいくらいだったけれど、誰も作ってくれないから自分で出すしかなかった」  撮影/齋藤周造
『こども六法』の制作は困難を極め、挫折しかけたという。「誰かほかの人が作ってくれるなら任せたいくらいだったけれど、誰も作ってくれないから自分で出すしかなかった」  撮影/齋藤周造
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「特別な家庭のルールがあったわけでもなくて、5時の鐘が鳴ったら帰りましょうぐらい(笑)。政治や社会への興味関心も平均的だったんじゃないかな。習い事は水泳と空手と英語とか。ただ、僕はあまり親にほめられた記憶がないんです。親が求めるのは、“クラスで1番”みたいなところだったけど、僕は競争が嫌いだし、1番とかとったことがないので、けなされてばかりでした。

 特に父親はステレオタイプで、医者になれとも弁護士になれとも言われたし、大学に入ってからは商社とかおもしろいんじゃないか? とか。だけど僕はむしろ、親がなってほしくない職業のワースト1から3まで順に攻めてる感じです」

 だから、仲が悪いんですけど、と笑った。自分の考え方は、親や家庭環境に関係なく、

「あくまでも、自分発信です。子どもは育ちたいように育つ、と思ってますから」と、山崎。

これは『こども六法』を通じて伝えたいことのひとつなんですけど、ある行動をするかしないかは自分に決定権がある。そして、やったことの責任は自分でとらなきゃいけない。

 例えば、人生のライフキャリアの選択の場合だと、親や周りの人が、どういう職業につきなさい、こういうことをしなさいというアドバイスをたくさんくれるだろう。でも、それを選択したからといって、誰も責任はとってくれない。結局、自分の人生は自分で責任をとっていくという信念というか、生き方みたいなのものがあります」

 その信念は、大人に救われることがなかった小学生時代のいじめ体験が培ったものかもしれない……。

 実は山崎には、法教育の研究者のほかに、ミュージカル俳優であり、カメラマンでもあるという異色の顔を持つ。さらには、演劇公演の企画やプロデュースを行う、合同会社Art&Artsの代表も務めている。

 山崎は自らを「いじめの研究をしながら舞台に立つ自由人」と称する。

「人生100年の時代で、しかも1回しかないものなので、やりたいことは全部やっていこうと思って。その中では仕事になるものもあれば、趣味で終わっちゃうものもある、と」

 そうは言っても、そのやりたいことに対する極め方が、彼の場合は並はずれている。