行政負担のPCR検査が解決策の1つ

 解決策の 1つとしては、利用者と県外から通う家族に、行政が負担しPCR検査を実施できれば、介護保険サービスを利用できない期間を最短におさえることができるのではなかろうか。すでに介護施設の職員や特養施設への入所予定者などに行政負担でPCR検査をする体制は少しずつ広がりを見せている。しかし、特養などだけでなく、通所介護サービスや居宅介護サービスの利用者、そこに通う県外からの家族に対してのPCR検査を実施する自治体はまだ少なく、地域差がある。

 静岡県では富士宮市が上限2万円の行政補助で無症状者に対するPCR検査をスタートした。市が指定する感染拡大地域から市内に住む高齢な親のもとに帰省したい家族は、市の窓口に申請し利用できる。ただし、検査日は帰省した日から1週間以内となっているため事前の検査はできず、早くても帰省当日の検査となる。それでも陰性と出れば、家族が帰省してきたから介護サービスが受けられないという期間は数日ですむようになるはずだ。検査は検体方法が唾液の摂取であれば翌々日、鼻からの検体であれば即日結果がわかるという。施設のスタッフも利用できる制度のため、介護現場の負担も軽減できる。残念ながら函南町や三島市ではこの制度はない。

介護施設に陽性者の公表義務はない

 コロナ禍で遠距離に限らず、介護施設や利用者とその家族の安全を守り負担を減らすためには、施設事業者間の横の繋がりも重要だ。今秋、静岡県内のある介護施設のスタッフに陽性者が発生した。しかし、そのことが周辺地域の介護施設には充分知らされなかった。

 ある通所介護施設の所長は、

「陽性が出た施設と私どもの施設の両方を利用している方から聞いて驚きました。急きょ、そちらの施設にも通っている3人の利用者に2週間のデイサービスの利用停止をお願いしました。

 実は厚生労働省のガイドラインでは、施設でコロナの陽性患者が発生した場合、その施設に公表義務があるとは書かれていないのです。義務ではないので施設によっては風評被害をおそれ公表しないことも考えられるのです。どこの施設で発生したか人づてに聞くだけでは、対応が遅れてしまいます。東京でしたら施設が公表しなくてもメディアが嗅ぎつけてどこの施設かわかるでしょう。でも地方では小さい施設も多くあり、メディアがチェックしきれないと思います」

 と訴えた。

 複数施設を併用している利用者が多い状況の中、感染を広げないためにも、一般公表はせずとも、横の繋がりとして同業者間の詳細な連絡を徹底する必要があるのではないか。

 コロナ感染の収束が見えないまま、介護現場のスタッフへの重圧や利用者とその家族の試行錯誤は続いている。行政も動きだしたが、もっとスピードを上げて対応策をとらなければ、介護現場とその利用者家族が持ちこたえられない。


宇山公子(うやま・きみこ)
フリーライター。OL、主婦、全国紙記者を経て、現在はフリーランスで活動。主に、健康、医療、食分野での執筆を行っている