それでも、たとえ数日間でも東京に戻るためには留守中の母の安否確認がどうしても必要だ。いろいろ探した結果、終日、家に母が1人でいる日の夕食は安否確認付きの高齢者向けの宅配弁当を注文することにした。これは、宅配弁当業者が利用者に直接弁当を手渡し、その後、事前に登録しておいた家族の元にショートメールで連絡をするというものだ。とてもありがたかったが、いざ利用してみると夕食の配達時間は午後3時半ごろで、夕方以降の安否は確認できないという事実に気がついた。

母の安否確認はスマートスピーカーを利用

 なんとか別の手段を検討した結果、母の安否確認は人間ではなく、カメラやビデオ電話代わりに使えるスクリーン付きスマートスピーカー(アマゾン エコー)に任せることにした。これを筆者のスマホとインターネットでつないで使う。

 エコーには、AIアシスタントのアレクサが搭載されているため、通話ができる音声交流以外に音楽再生、タイマーの設定、天気予報やニュースなどのリアルタイム情報を聞くことができる。費用は、エコーの購入費が約5000円と月々のWi-Fi利用料金のみで、それほどかからない。ただしWi-Fiは通信容量の制限がないものにした。

 エコーを実家の台所に置いて、筆者が東京に戻っているときはスマホを介して毎晩、ビデオ通話をした。母は一切エコーに手を触れる必要がない。夕食を食べながらその日の出来事や気になることを話してくれる。エコーでは、設置してある台所以外の音声、例えば居間のテレビの音や洗面所で水道を使う音なども鮮明に聞くことができるため、母が画面に映らなくても気配がそれとなくわかるので安心した。母は時折「アレクサ、明日の天気を教えて」「アレクサ、NHKニュースをかけて」と話しかけている。

全国的に起こる遠距離介護の危機

 コロナ禍で遠距離介護の家族がサービスの利用もできずに困っている状況は、静岡県に限らず、全国で起きている。

 遠距離介護支援協会(鳥取県)によると、鳥取県では、90歳の親元に北海道に住む子どもが定期的に通ってきていたが、コロナのため、北海道に帰らず親元にいることを選んだ。しかし2週間、介護保険サービスも介護保険外サービスも利用できず、ケアマネジャーにもヘルパーにも訪問してもらえず、子ども1人で介護を担うしかなかったという。

 岩手県では東京に住む子どもが、毎月、高齢の母親の元に帰省し大学病院に付き添っていたが、病院側から付き添いを断られてしまった。介護保険を利用した通院介助では、基本的に診療室内での介助(ヘルパーが利用者の病状について医師とやりとりするなど)はできない。そのため、介護保険外サービスを利用して付き添いをお願いしたという。

 コロナの収束が見えず、介護施設は利用者の安全を最優先し、県外者との接触に慎重になっている。入居施設では面会謝絶や窓越しの面会、通所施設や在宅介護では接触しない期間などを設けることは十分理解できる。最近では、その期間も2週間より短くなっているところもある。しかし、遠方から通う利用者の家族は適当な代替サービスも見つからず、本当にどうしていいかわからず悩み続けている。