泥棒のくせに大上段に構えて愛を滔々(とうとう)と語るという盗っ人猛々しい『TAKE FIVE~俺たちに愛は盗めるか~』(2013年・TBS)、30年間眠っていた昭和の刑事が斉藤由貴の「卒業」を聴いてなぜか目覚め、平成の時代にバブル臭をまき散らして大暴れする『THE LAST COP』(2015~2016年・日テレ。しかも映画化まで!)、そして、奇策連発で都合よく限界集落を盛り上げる公務員を演じた『ナポレオンの村』(2015年・TBS)だ。この3つ、記憶にある? それが答えでもある。

 今は漫画原作が席巻し、脚光を浴びる日本のドラマ界。登場人物が若く、ベテラン二枚目が主演を張れる作品が少ない。そもそも若さ優先業界なので、本来なら40代の俳優が演じるべき役を20~30代の俳優が演じる傾向がある。57歳でも40代に見える唐沢はイケそうな気がするが、若い人気イケメンが主役になる構図は崩れない。年齢相応が当たり前の海外原作にベテランが配置されるのは必然ともいえる。

どんな唐沢が見たいか、問うてみる

 恋愛至上主義から権威至上主義へ、企業レベルから国家レベルの危機まで背負ってきた唐沢に今後どんな役を演じてほしいのか、自分に問うてみる。

 思い返してみると、唐沢が劇中で精神的に最も追い込まれた役は『小早川伸木の恋』(2006年・フジ)ではないかと思う。これ、「小早川伸木の災難」といったほうがいい。病的に嫉妬深くて束縛が激しい妻(片瀬那奈)に心身ともに悩まされ、許されぬ恋心に揺らぐというドラマだったが、唐沢に100%同情した。いつもならどんな不倫ドラマでも女性のほうにシンパシーを覚えるのだが、これだけは別。

 唐沢は「優しすぎる人」、たぶん今でいうところの「エンパス」に近い役どころだ。人の気持ちや感情をくみとり、空気を読みすぎて疲れてしまう。完璧な善人に見えるけれど、本人の消耗は想像以上に激しい。いや、見ているほうもどっと疲弊して消耗する作品ではあったが、小早川伸木を心の底から助けてあげたいと思った。唐沢が演じてきた役の中で、こんなに同情したのは小早川伸木くらいである。

 たぶん、いつも正しい正義の味方で、トラブルや事件から人々を救ってきた唐沢に「弱み」を見せてほしいのかもしれない。それもちょっとやそっとの弱みではなく、人としての後ろめたさや、大人としての恥ずかしさを含む「弱み」を。

 また、唐沢の医師役キャリアの着地点としては、テレ東のスペシャルドラマ『あまんじゃく』(2018年・2020年)が面白かった。元外科医で殺し屋という役には「(人を殺める)作業上の合理性」と「命を救うはずが命を奪うという存在意義の矛盾」がある。大作や名作、王道もいいが、邪道や外道を突き進む唐沢も私は見たい。

 もちろん人それぞれ好みがある。テレ朝の人は「私の好きな唐沢ドラマベスト3」を挙げてみて。今後、そこに『24JAPAN』が入るよう、何か手を打つべきだと思う。


吉田 潮(よしだ うしお)コラムニスト・イラストレーター
1972年生まれ。おひつじ座のB型。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News it!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。