妻を責め続けると、家族全員が一生苦しむ

 徹さんと由美子さんには明彦くんがうつ状態であること、将来を悲観しており、何事に対しても意欲が低下していること、その原因が両親の言い争いであることを伝えました。そしてこのままでは悪化していき、引きこもりや家出などのリスクがあることも伝えました。徹さんには、由美子さんが許せないのはわかるけれど、明彦くんの将来をダメにしてしまう可能性があることを伝え、

「幸せにさせたくない、という理由で離婚せずに奥さんを責め続けると、家族全員が一生苦しむことになりますよ」

 とも伝えました。徹さんも由美子さんも明彦くんの人生を台無しにしたくはない、と言いました。

 それならば、しなければいけないことは夫婦仲を改善することです。徹さんの怒りが収まらないのは理解できるけれど、いつまでも引きずるのではなく、きちんと不倫の件は終わりにすることが重要です。そして明彦くんに対しては、母親の不倫の詳細を知るような言い争いをしたことを謝り、勉強したくなくなるようにさせたのは自分たちだと認めるようにも話しました。しばらくは「勉強しろ」とは言わずに、明彦くんの心が回復するのを待つしかないこと、回復するためには家の中が穏やかであることが重要であることも説明しました。

 明彦くんには、両親への怒りの整理と、自分自身の将来をもう一度大切にできるようになるための心のケアに通ってもらうことにしました。そして最後に徹さんに、どうしても由美子さんを責めたくなってしまうのであれば、しばらく別居してみてはどうか、とも伝えました。徹さんは「考えてみます」と言いましたが、結局別居はせずに家族3人での生活を続けています。

 カウンセリングに通ってくれている明彦くんによれば、言い争いはなくなったそうです。母親と二人で家にいるのが嫌なのもあって、塾にも通い始めたそうです。ただ、両親への嫌悪が消えるまでには、まだまだ時間がかかります。

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 不倫は、配偶者を苦しめるだけでなく、子どもの心も深く傷つけ、死にたくなるまでに追い詰め、家族を破綻させてしまうのです。そして子どもの将来への希望を奪い、自分なんてどうでもいい、と思わせ、子どもの人生を狂わせてしてしまうこともあるのです。また両親に一度抱いた嫌悪感は、一生続いてしまうかもしれないのです。

 夫婦間で不倫が発覚したとき、子どもにそれを話すのは絶対にしてはならないことですし、気づかれないようにしなければなりません。夫婦喧嘩も子どもの前ではもちろんのこと、子どもに聞かれてしまうことも避けなければなりません。どうしても相手への憎しみや怒りが消えず、責め立てることが続いてしまうなら、一時的に別居を考えるのも手段です。冷静になって、どうすれば自分は、子どもは、家族は幸せになれるのかを考える時間も必要かもしれません。

 また、子ども不倫に気づいてしまった場合は、まず不倫をした当事者である親がきちんと子どもに謝り、二度としない約束をすること、家族を大事にしていくために頑張ることを伝えましょう。そして夫婦は、不倫という問題をきちんと終わりにし、その後持ち出さずに、関係改善を目指していくことが必要です。

 どうしても関係が改善できない、もう一度信じることができないときは、子どものへの影響、子どもの気持ちを考え、これからの人生を考えていく必要があると言えます。


山脇由貴子(やまわき・ゆきこ)
1969年、東京都生まれ。横浜市立大学心理学専攻。大学卒業後、東京都に心理職として入都。都内の児童相談所に心理の専門家として19年間勤務。現在は家族問題カウンセラーとして活動。テレビや雑誌で虐待などの家族問題についてコメントすることも多い。2006年、いじめ問題の核心をついた『教室の悪魔 見えない「いじめ」を解決するために』(ポプラ社)が17万部のベストセラーに。2016年に『告発 児童相談所が子供を殺す』(文藝春秋)を出版。近著は『夫のLINEはなぜ不愉快なのか』(文藝春秋)。