フィギュアの販売も(アニプレックスHPより)
フィギュアの販売も(アニプレックスHPより)
【写真】“鬼滅愛”溢れる叶姉妹のコスプレに賞賛の声

 さらにアニプレックスは『鬼滅の刃』のゲームも作っている。フィギュアなどの関連商品も。DVDの発売元もやはりグループのソニーミュージックマーケティングだ。これらの売り上げも莫大な金額になる。「ソニーが一番儲かっている」という言葉もうなずける。

地方局で勝負に出たアニメ

 そもそも、漫画を世に出し、大成功させたのは集英社であるものの、アニメ化して国民的ブームにまで昇華させたのはアニプレックスなのだ。この作品が『少年ジャンプ』で連載が始まったのは2016年2月。ほどなくアニプレックスはアニメ化を申し入れていたという。慧眼と言わざるを得ない。

 国民的ブームの火付け役となったのは在京民放キー局を除いた全国21局でのテレビアニメ放映(2019年4月以降)だった。これを仕掛けたのもアニプレックス。近年、ゴールデンタイムでのアニメ放映に消極的な在京民放キー局に頼るつもりは最初からなかったらしい。

 今は在京民放キー局と組まなくてもアニメをヒットに結び付けられるようになった。地方局などでの好評が得られれば、ファンの声がSNSで拡散され、テレビで視聴できない地域の人も動画配信サービスなどで見るからだ。事実、筆者がテレビアニメ版を最初に見たのもケーブルテレビを通じてだった。

 フジテレビは昨年10月から計3回、アニメ版を放送し、高視聴率を獲得。そんなこともあり、フジを含めた在京民放キー局の一部は、これから『鬼滅の刃』のチームに加わりたいと考えているようだが、難しいだろう。

 在京民放キー局を新たに仲間に迎え入れてもメリットが思い浮かばないからだ。逆に制作委員会が3社から4社に増えてしまうと、次に劇場版をつくった際の収益が減ってしまう。

 ソニーは劇場版公開後の昨年10月末、2021年3月期の連結業績予想を上方修正した。つまり、「今年度は思っていたより儲かるだろう」と宣言したのである。

 売上高の見通しを従来の8兆3000億円から8兆5000億円に、本業の儲けを示す営業利益を6200億円から7000億円にそれぞれ引き上げた。劇場版やLiSAの作品などの大ヒットが影響したのは言うまでもない。

 目利きがそろい、体制も整っているアニプレックスは今後も台頭を続けるに違いない。ウォークマンの発売から40年余。「技術のソニー」はアニメ界の主導権を握ろうとしている。

*参考文献『日経トレンディ』2020年12月号

高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立