心と身体に効く
「言葉」の数々

 そんな私が、50歳を目前にして約30年ぶりに巡り合ったのが『養生訓』です。あらためて読み直すうちに、「ここには今の私に必要な言葉が詰まっている」と実感しました。江戸時代に書かれた『養生訓』が令和の今を生きる私の心に大きく響いたのです。
 
 たとえば、「すべてのことに励み、続けていれば必ず効果は現れる。それは春に種をまいて夏によく手入れをすれば、秋に豊かな実りとなるようなものである」という教えです。仕事でも日常生活でも、「がんばっているつもりなのに、結果が出ない」、「もうやめたほうがいいのかもしれない」とくじけそうになる瞬間が訪れることがあるものの、この養生訓を読むと自分自身をほんの少し肯定できるのです。
 
 また、ダイエットを切望しつつも、おやつの時間や満腹感にこの上ない幸福を感じてしまう私にとって、「腹八分目にとどめるべし」、「間食してはならない」という主旨の養生訓は大きな戒めとなっています(ただ、なかなか実践できないのですが……)。
 
 このように、『養生訓』には心と身体に効く言葉がたくさん詰まっています。

 2020年9月に発売となった『ニャン生訓』(集英社インターナショナル)は、現代人にも通じる『養生訓』の教えを厳選し、人気の写真家・沖昌之さんが撮影したの写真とともに紹介した一冊です。

 たとえば、崇高なものに対する畏敬の大切さを説いた養生訓には天を仰ぎ見るようなのカット、踊ることで心身に気を巡らせることを述べたページにはまるで踊りの練習をしているようなの写真を組み合わせるなど、見るだけでも楽しめる構成となっています。
 
 ちなみに、『ニャン生訓』の中で、私は現代語訳と解説をしております。タイトなスケジュールの中でやらなければならないことが山ほどあり、一時は一日24時間のうち20時間は『ニャン生訓』と向き合っているような日々でした。
 
 そんな状況に追い打ちをかけるかのように何度も原稿にダメ出しがあり、もともと自己肯定感が低い私は「あぁ、なんてダメな人間なんだろう……」と何度も心が折れそうになりました。
 
 そのたびに救われたのが、『ニャン生訓』でも紹介されている「己を愛せよ」の教えです。同じく、『ニャン生訓』に登場する“呼吸をゆっくりと行う”、“自分で按摩や指圧をするのもよい”という主旨の養生訓を参考に、強い焦りや不安を感じたときには、腹式呼吸やストレッチをすることで乗りきれました。はからずも、『ニャン生訓』の執筆をとおして、『養生訓』の言葉が秘める確かな力を実感することができたのです。
 
 実際、『養生訓』が300年の時を超えて今なお読み継がれている大きな理由のひとつには、身体のみならず心の健康にも言及していることが挙げられます。『養生訓』では、健康を維持するためには心の健康を保つことが何よりも大切だと考えられているのです。
 
 心身に不安を抱えてしまいがちなコロナ禍のさなか、『ニャン生訓』を通して『養生訓』の教えが届くことで、いろいろな不安を抱えている方の気持ちが少しでも癒されますように。

『ニャン生訓』※記事の中で画像をクリックするとamazonの紹介ページに移動します

『ニャン生訓』(集英社インターナショナル)
養生訓/貝原益軒 写真/沖昌之 現代語訳・解説/熊谷あづさ
価格:1500円(税別)

熊谷あづさ(くまがい・あづさ)
ライター。健康管理士。1971年宮城県生まれ。埼玉大学教育学部卒業後、会社員を経てライターに転身。週刊誌や月刊誌、健康誌を中心に医療・健康、食、本、人物インタビューなどの取材・執筆を手がける。ブログ:「書きもの屋さん」、Twitter:@kumagai_azusa、Instagram:@kumagai.azusa