江戸時代から続くロングセラー書『養生訓』をわかりやすく現代語訳して解説、さらに写真家・沖昌之さんの写真を組み合わせた新感覚の健康本『ニャン生訓』(集英社インターナショナル)が話題! 著者の熊谷あづささんは、執筆を通して実際に『養生訓』のチカラを実感したといいます。時代を超えて令和の私たちに響くメッセージ、そして“癒され整う”簡単健康法とはーー。熊谷さんによる寄稿をお届けします。

現代人にも響く
江戸時代『養生訓』の教え

 『養生訓』という書物があります。

 今から300年も前の江戸時代に出版されたもので、著者は儒学者として名高い貝原益軒先生です。その題名のとおり、『養生訓』には心身の健康に役立つ方法がたくさん書かれています。現代でいえば、健康指南書というところでしょうか。
 
 私はもうすぐ50歳になるのですが、実は大学生のころに『養生訓』を読んだことがあります。ただ、つい最近までの私は、記憶のどこを探しても『養生訓』に出てくる言葉も教えも見つかりませんでした。あるのは“読んだことがある”という事実だけ。
 
 大学時代にも、風邪をひいたり悩みごとを抱えたりと心身の不調に見舞われたことがあるはずなのですが、“健康”や“養生”といった言葉は、当時の私の心にはさほど響かなかったようです。なぜかというと、自分のエネルギーは無尽蔵に蓄積されていて、泉のようにこんこんと湧き出るものだと信じて疑わなかったから。実際、アラサーのころまでは、全力疾走をして疲れても体力を気力でカバーできていました。
 
 しかし、30代半ばを過ぎてからは日に日に疲労感がたまり、いつも身体のどこかがスッキリせず、年齢を重ねるごとに体重が微増し、未婚である自分に焦り、フリーランスの将来に不安を覚え、40代を迎えるころには心身ともに絶不調の時期に突入です。そうなってようやく、若さという魔法はすでにとけ、自分のエネルギーは有限であることに気づきました。
 
 “健康”や“養生”といった言葉に関心が向くようになったのも、このころからです。
 
 頭痛や胃痛などで頻繁に病院を受診したり、軽度の不眠症で睡眠導入剤を処方してもらったり、軽いうつ状態で心療内科にお世話になったりと西洋医学の力を大いに借りるようになりました。また、ベリーダンスを習いはじめて身体を動かしたり、旬の食材を使った自炊をしたり、好きなミュージシャンのライブに足を運んで非現実の世界を楽しんだりと、普段の生活の中で心身のバランスをとることを心がけるようにもなりました。
 
 そうするうちに、自分の心と身体のクセのようなものが、おぼろげながらもわかってきたような気がします。とはいうものの、心身とのつきあい方との核となるものがなく、気になるアイテムや方法にむやみやたらに手を出しているような状態であったのも事実です。