西野提案「バーべキュー型」の落とし穴

 実際、1月26日放送の『華丸大吉&千鳥のテッパンいただきます!』に再び出演した西野は、「これからのエンタメは(出されたものを食べる)レストラン型ではなく、(自分で作って食べる)バーべキュー型」とし、「お客さんが参加できる余白が設計できている」ものがヒットすると発言しています。

 その一例として、高い動員数を誇るDJダイノジのイベントを上げています。DJダイノジはステージに一般人のオジサンをダンサーとして上げたことがあるそうです。シロウトですから、うまいはずがありません。しかし、オジサンたちのダンスがあまりにヤバかったことが逆に観客に安心感を与え、全員でエアロビクスのように踊るようになったそうです。一体感が得られたからでしょうか、打ち解けた初対面の客同士でフェスの帰りに飲みに行ったりするようになったと話していました。

 時代に合った売り方を熟知しているといえますが、これは「パフォーマンスの魅力よりも、パフォーマーの知名度で集客」「観客はパフォーマンスなんて見ていないのだから、素人にもできる簡単なことを用意しろ」ともとれる方法です。たたき上げの専業クリエイターは育たず、業界は先細り。文化全般が衰退してしまうのではないでしょうか。

承認欲求の強い若者が多いからこそのリスク

 西野に死角があるとしたら、オンラインサロンの会員が増えすぎることではないでしょうか。人が集まれば西野の目は行き届かなくなりますし、サロン内に自然と競争意識が芽生えるでしょう。サロン内でのヒエラルキーを上げたい、西野に目をかけられたいがために、若い女性が借金をして映画のチケットを大量購入したとします。売れれば何の問題もないわけですが、売れなくて借金だけが残ってしまったら──。借金返済のために、女性が風俗で働くなんてことになったら「西野のサロンに入ると、若いオンナは風俗で働かされるらしいよ」なんてデマが流されないとも限らない。

 承認欲求の強い若者が多いからこそ、彼のサロンもしくはビジネスが成り立っているわけですが、承認欲求ゆえの暴走を許すとアンチ西野に攻撃のチャンスを与えてしまうことになります。

 西野は法を犯していないわけで、当然、詐欺師よばわりされる筋合いはありません。お金の流れと消費者心理を掴んでいるので、そこから逆算して次々と新しい作戦を打ち出すことができるのだと思います。ということは、ヤバイのは西野ではなく、若者に地道な努力の必要性と、傷つくことはマイナスとは限らず、そこから得られることもたくさんあると教えられない、われわれオトナがヤバいのかもしれません。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」