8年外に出られず、20歳を迎えて…

 中学には1度も行っていない。家にこもっていると登下校で外を通る同世代の声が聞こえたりする。それが彼の焦りに拍車をかけた。

「そうなるともう、アニメやゲームに逃げるしかない。でも逃げながらも、みんなに置いていかれる不安があるんです。朝起きてゲームを始めるんだけど、内心は恐怖感しかありません。年をとるのが怖かった。そのうち昼夜逆転して、起きると夕方になっている。もう、うつ状態ですよね。今でも休日にうっかり寝坊して昼まで寝てしまうと当時の絶望感を思い出します」

 無限ループに入り込んだ心境だったと彼は遠い目になる。親は見守ってくれたが、当時の姉たちは辛辣だった。

あんたはいいよね、ひたすら家にいてわがままに過ごしてと、よく言われました。そう見えたんでしょうね」

 中学時代にパソコンを手に入れ、『パニック障害』という言葉を知った。自分がぴったり当てはまるとわかったものの、症状が改善されたわけでもない。高校にも行かないまま、彼は20歳を迎えた。実に8年間、家からほぼ一歩も出なかったのだ。自傷や希死念慮はなかったものの、気持ちが荒れて自室で暴れたこともある。壁には今もいくつか穴があいているという。

「20歳になったとき年齢のプレッシャーを感じました。このまま親と一緒に何もしないままに年をとっていくと心底、怖くなったんです。だからといって、外に出て何をするんだという気持ちもある。それでも体力が落ちているのはわかっていたので怖かったけど、ある夜、外に出てみたんです。死ぬ思いでしたよ。だけどどちらにしても悲惨なら、1歩出てみるしかない。外を歩いてみて、そのうちジョギングを始めて。近くの小学校にサッカーボールが落ちていたのでそれを蹴ったとき、ものすごくうれしかったのを覚えています。そうやって少しずつクリアしていったんです」

 朝早く起きて人のいない近くの山を散策したり、両親に近くの湖に連れていってもらったり外に出ることが徐々に楽しくなっていった。だがそこで、はたと彼は気づく。

「他者と接触していないから自分のコミュニケーション力が12歳で止まっているわけです。このまま30歳になったらまずいと真剣に思いました」

 外に出ることはできたが、どう人と接触したらいいのか、この先、何をしたらいいのか見当がつかなかった。