定時制高校の卒業率は60パーセントとも70パーセントとも言われる。昼間仕事をしている人が多いため、両立できずに中退していくケースが多いのだろう。田澤さんは昼間アルバイトをしながら、1日も休まず4年間で卒業した。

「高校時代、僕は絵が好きだなと実感したんです。ひきこもっているとき映画とアニメばかり見ていたこともあって、アニメを作る側にいってみたいと思っていました。年齢的にハードルが高いとも思ったけど、思い切ってアニメの専門学校に通うことにしたんです」

 アルバイトで貯めたお金で専門学校に入学。2年間、1度も休まずに片道1時間以上の電車通学をやり遂げた。車の免許も取得した。なによりアニメ制作を学ぶのが楽しかったし、外国人学生も多く、多様性があるところが彼に合っていたのかもしれない。

夢を叶え働く今も肯定できない過去

 そして彼は望みどおり、アニメ制作会社に就職した。採用理由は「(映像になることを)きちんと考えて絵を描いているから」。加えて、彼のまじめさも評価された。1年間、動画部分を描く仕事をし、その後、少し格上の「原画マン」となる。現在はコロナ禍で、在宅勤務が多い。

「夕方になって急に、この部分を明日の朝までにお願い、と言われることもあるんです。でも忙しいのは嫌じゃないですね。まだまだ未熟ですけど、『あなた、うまいから背景描いて』なんて言われると本当にうれしい。家で仕事をしていると、食事も気軽にできるから僕にとってはいい環境で仕事ができます。会社に行くと、どうしても食べない選択をしてしまうので」

 ひきこもっていた8年間は、彼にとってエネルギーをためる時間だったのかもしれない。安易にそう思ったが、彼はまだそう考えることはできないという。

「今でも僕は、自分なんかが楽しんでいいのか、笑っていいのかと思っているんです」

 言われて初めて気づいた。彼は柔和な表情でいつも微笑みを浮かべているのだが、そういえば大きく笑うことはない。笑うのが怖い、本性を出すのが怖いという気持ちは抜けないのだという。

不登校ひきこもりは親不孝だというイメージがあるでしょ。僕自身もそれにとらわれている。ネットで知り合った人たちがひきこもりを悪く言っているのを聞いて裏切られたような気持ちになったこともあるし、世間がどう見ているかもわかってる。だからずっと自分は楽しんではいけない人間なんだという気持ちがどこかに残っているんです」

 外で傷ついたことによって、ひきこもってホッとする人もいるかもしれない。それでもある程度の時間がたてば、今度はひきこもっていることがつらくなっていく。

 ひきこもりは甘えだと言う人たちに、彼は「いや、地獄だよ」とアンチテーゼを突きつけている。


かめやま・さなえ 1960年、東京生まれ。明治大学文学部卒業後、フリーライターとして活動。女の生き方をテーマに、恋愛、結婚、性の問題、また、女性や子どもの貧困、熊本地震など、幅広くノンフィクションを執筆