めまいがするほどのナルシスト

 ネタバレになるので具体的なことが書けないかわりに、過去に対談で彼が発言していたことを引用したい。すでに『プペル』の脚本が完成していたという2015年のことである。

《映画はあんまり見ないんですよ。本もあんまり読まない。皆さんの想像以上に僕、自分のことが好きでね。めまいがするほどナルシストなんです。本当そうなんです。映画観に行く時間と自分がモノを創りたいという欲を天秤にかけたときにですね、やっぱ家でこうやっている(書くジェスチャー)のほうが楽しいんですよね》(『岡田斗司夫 YouTubeチャンネル』)

 そういう人が作った映画なんだろうな、というのが個人的な感想である。素人が口を挟むなとお叱りを受けそうだが、脚本家としてストーリーを作る以上は、なるべく多くの作品に触れておいたほうがいいのではと思った次第。

 ネットで“信者がまたプペってる”と揶揄されてしまうのも、作品のクオリティと無関係とは言い切れないだろう。現に『鬼滅の刃』ファンたちによる「今日も無限列車に乗車しちゃいました〜」のツイートに対し、信者とする声は聞かれないわけで。同じアニメ映画ながら、“子どもウケ”の数が圧倒的に違うのも両作を隔てるポイントかも。

人々の日常に溶け込む『プペル』の広告(新宿ビックロ前)
人々の日常に溶け込む『プペル』の広告(新宿ビックロ前)
【写真】日常に溶け込む『えんとつ町のプペル』

 2016年に出版された絵本『えんとつ町のプペル』は絵本作家やCGアーティスト作家など35人を集めて共同製作された。映画版も一流クリエイターが集まる『スタジオ4℃』がアニメーションを制作している。西野は「キャラクターは描けないけど建物を描くのは得意な人もいる」という考えのもと、異なるスキルを持ったプロたちを適材適所に振り分けていったという。

《映画だったら、監督さんや照明さん、美術さんとかがそれぞれいて、一つの作品を作りますよね。だって、そのほうがいいものができるから。監督さんがメイクをするよりも、プロのメイクさんに頼んだほうが、映画は絶対にいいものになる。(中略)空のプロフェッショナル、森のプロフェッショナル、建物のプロフェッショナル、と集まって一つのものを作りたい、と思いました》(『いちあっぷ』2016年11月15日配信)

 その理屈でいえば、脚本のプロフェッショナルも集めたほうがより良い作品が生まれるのではないだろうか。彼が打倒を目指すディズニーの『スタジオピクサー』最新作『ソウルフル・ワールド』の脚本も3人の名前がクレジットされている。オンラインサロンでエンタメを研究している彼が、そのことを知らないわけがないはず。それでも、脚本を手がけるのは西野亮廣ひとりなのである。そこにこだわるのは、本業はオンラインサロン経営者でなく、あくまでアーティストなのだという矜持のあらわれか。それとも、「夢を持てば笑われ、叩かれた。それでも挑戦をやめなかった」西野の半生がモロに投影された作風の『プペル』においては、“ひとりで書き上げる”ほうが教典となりうると考えたか──。

《僕、絵本を書くって言った時に、結構バッシングがあったんですよ。なんで芸人なのに絵本書くんだって。ひな壇に出ないって決めた時にもバッシングがあった。その時に、学校だとか会社とかで、意思表明をしたら軽い村八分に遭っている人たちがバッと集まってきたんです。それで「この人たちを徹底的に応援しよう」って思った。(中略)だからその人たちのことは常に考えているよ》(別冊カドカワ2017年11月)

 結局、答えは彼本人にしかわからないのだが。 

 西野が劇場を後にしたあと、ぞろぞろと映画館を後にする客たちのなかに、この日彼が一緒に鑑賞する回だと知らなかった女性二人組が何やら話しているのが聞こえた。年は20代半ばくらいであろうか。

「びっくりした。最初、なんで拍手してるのか全くわからなかった」

「ね。……毎回いるのかな?」

 そう、彼はこの「一緒に鑑賞」する営業活動を全国で行なっており、もう少しで100劇場になるのだという。…… もうすぐ100プペである。そのことを彼女たちに教えてあげたい。

 普段から西野は「睡眠時間は2時間」とアピールしている男だ。この映画を観るのに費やした10000分の間に、一度も居眠りをしていなかったら本物である。

〈皿乃まる美・コラムニスト〉