「退職した今も
フラッシュバックに苦しんでます」

 しかし、上司2人にはなんの処罰も下されなかった。一方、被害を申し出た渡辺さんは突然、これまでの業務とは全く関係のない食品ビジネス担当に異動させられた。一連のストレスで渡辺さんは適応障害や不眠、血尿などに苦しみ、'19年4月に休職し、6月に退職した。

「退職してからも、フラッシュバックにたびたび悩まされました。家族も“そこまでして働くことはない、とにかく生きていてくれればいい”と心配して見守ってくれました。泣き寝入りもやむなしと思ったこともありました」

 昨年秋ごろからメディアがこの問題を取り上げたこともあり、社会の流れが変わってきていることを実感。

「“きっと私のように苦しんでいる方がほかにもいる。勇気を持って声を上げないといけない”と思い、提訴することを決心しました」

 渡辺さんは'20年12月に前述の女性上司と男性部長、そしてドコモからセクハラパワハラを受けたとして、東京地裁に提訴。治療費や慰謝料の損害賠償など計約463万円を求めている。

 渡辺さんの代理人で、労働問題に詳しい明石順平弁護士は「会社側は上司2人に処罰も与えず、逆に被害を訴えた渡辺さんは、畑違いの部署に異動させられる報復人事を受けた。被害者に追い打ちをかける企業のやり方は悪質です」と指摘する。

 今年2月下旬には、第1回の弁論が行われた。

 裁判後、渡辺さんは週刊女性記者に次のように語った。

「男性が女性上司を訴える初めてのケースと言われていますが、裁判という公の場で企業側のコンプライアンス違反行為を明らかにしたい」

 4月には弁論準備手続きが取られる予定だ。渡辺さんの訴えは続く。

《取材・文/アケミン》