【体験談】父が「ある日突然」倒れる

 記者Mの父(73歳)は団塊世代、現役の書籍編集者だ。今年1月、いつものごとく自作の肴で晩酌中、1合徳利(とっくり)に注いだ酒をおちょこ1杯半飲んだところで突然“寝る”と寝室にさがった。母から聞いて、おかしいと思った。“酒の1滴は血の1滴や(酔うとなぜか関西弁)”という父がおちょこ半分を残すわけがない。

 翌日、会いに行くとボサボサ頭で登場。ショックだった。スタイリッシュな父しか私は知らない。そして、終始無言。「お父さん、うつか認知症だと思う」私はそっと母に耳打ちしたが、結果、脳梗塞だった。酒を残した翌週、無口キャラになった父は撮ったMRIで“心原性脳塞栓”と診断されたのだ。

 長年、不整脈でバイアスピリンを飲む父のかかりつけ医は心臓専門。“脳は専門外だし、もう発症から1週間。もっと強力な薬に替えるから、帰宅していつもどおり暮らして”と言う。驚いた。“文字が読み書きしづらい、言葉が出てこない”と日常の不便を告白(妻と子には黙秘)したのに、通常の生活? 病院を替えよう、と決意した。

「え、ここまで歩いてこられたの。カルテもご自身で? こんなに広範囲の梗塞で!?」

 と驚いたのは近所の総合病院、脳神経外科部長だ。先に画像を見ていた先生は父が言葉も発せない状態で来院すると推測し、今の状態は奇跡だと言ってくれた。発症からひと月後、父の脳を診てくれる医師がやっとできたのだ。“いずれは仕事も復帰させたい”と目標も伝えた。父はいま言語リハビリを受けている。

 “突然のその日”の対応で予後に差が出る。自分と家族を守るため、脳梗塞を知ろう。

(取材・文/山崎ますみ)

《PROFILE》
平野照之 ◎杏林大学医学部脳卒中医学教室教授。杏林大学医学部付属病院脳卒中センター長。日本脳卒中学会理事など数々の学会の要職を務める。著書『脳卒中の再発を防ぐ本』(講談社)ほか多数。

笹沼仁一 ◎脳外科医。新百合ヶ丘総合病院院長。日本脳神経外科学会専門医・指導医。日本脳卒中学会専門医・指導医。外来、脳ドックを中心に診療、後進を指導育成。