現役ジェンヌが公演を休んでヒロインに

 朝ドラの歴史の中では現役ジェンヌが、劇団の公演を休んでヒロインを演じたことも。

「『ぴあの』のヒロイン、純名里沙さんですね。実は、私の中で“宝塚の方”を意識した初めての女優さんが彼女なんです。発声の仕方、カメラへの視線などが明らかに映像の人ではなかった(笑)」(田幸さん)

 歌劇団に入って3年目、劇団のすすめで朝ドラヒロインのオーディションを受け、主演の座を射止めた純名。週刊女性の取材でも当時のことを、

《カメラテストでは、何か特技をやってみてと言われ、ミュージカル『ウエスト・サイド物語』の『トゥナイト』をアカペラで熱唱しました》

 ミュージカルの歌を歌った自分は珍しかったかもと、振り返っている。

「ほかの俳優さんとの演技の中で、浮いている感じがすごくて。そのときに“この人は宝塚のホープでエリート”ということを聞きまして、だからなのかと。すごく可愛いし、歌も演技もうまいけど、彼女にはすごく違和感を感じました」(田幸さん)

 それまでも宝塚出身の女優の演技を見てきたが、純名に感じた“違和感”の理由について田幸さんはこう続ける。

「映像作品に対して慣れてなかったからでしょう。例えば'83年から'84年に放送された『おしん』では、乙羽信子さんがヒロインの晩年を演じました。彼女は『肝っ玉かあさん』『ありがとう』といった“平岩弓枝シリーズ”で活躍してからの『おしん』でした。なので、違和感などはなくすごくナチュラルでした」(田幸さん)

 舞台と映像では演技が違うとはよく言われるが、それが映像の世界に飛び込んだジェンヌたちが初めてぶつかる“壁”。現在、ドラマなどでも活躍している、ある宝塚OGは、

「まず初めに声の出し方を直せ、とプロデューサーに言われました。あと、演技が大げさすぎると(笑)。舞台は遠くのお客さまにも伝わるようにと演技しますが、映像だとカメラが寄ってくれます。それがわかるまで、時間がかかりました」

 こういった“壁”を知らずに退団後、すぐに朝ドラに出演したOGもいる。

「'70年『虹』に出演された小柳ルミ子さん。歌劇団に入った目的は、芸能界デビューがしたいから(笑)。芸能事務所に入る条件が、音楽学校を首席で卒業することでしたが、見事その条件をクリア。2か月で退団し、朝ドラに出演しました」(田幸さん)