喫煙者の置かれる環境は日々変化している。2020年4月より改正健康増進法が全面施行され、それまでの学校、病院、行政機関庁舎などに加え、飲食店、オフィス、宿泊施設なども受動喫煙対策が義務付けられた。これにより屋内は原則禁煙となり、喫煙専用室または加熱式たばこ専用喫煙室でのみたばこを吸うことが可能に。

 しかし、改正健康増進法の全面施行の前より新型コロナウイルスが流行し、感染拡大防止の観点から多くの喫煙所が閉鎖された。現在、喫煙者が屋内でたばこを吸える場所はかなり限られている状況だ。

喫煙所閉鎖で路上喫煙やポイ捨て増加

  そんな中で今問題となっているのが、路地や空き地など屋外での喫煙だ。各所に設置されていた喫煙所が軒並み閉鎖されたことで、行き場をなくした人たちが灰皿のない場所で喫煙するようになり、タバコのポイ捨ても増加。

 Twitterを中心としたSNSでは「喫煙所がなくなり、ポイ捨てが増えたことで火事が心配」「ここ最近、路地に隠れて喫煙する人をよく見かける」といったつぶやきや、歩きタバコやタバコのポイ捨てなど、喫煙にまつわるマナー違反者を撮影した動画が頻繁に投稿されるようになっている。

閉鎖型喫煙所の設置

 一方、東京・武蔵野市では喫煙所を設置することで分煙化し、マナー向上に成功しているという。市の担当者によると、武蔵野市は吉祥寺駅・三鷹駅北口・武蔵境駅周辺を路上禁煙地区に指定し開放型の公共喫煙所を設置していたが、健康や受動喫煙を不安視する市民の声を受け、2014年に廃止した。それに伴い、喫煙者は店舗敷地内に置かれている灰皿で喫煙するようになったが……。

路上禁煙地区内の路上にあふれて喫煙する人が増加し、たばこの煙などに対する苦情が多数寄せられるようになりました。また、路上禁煙地区内の巡回で喫煙に関する指導をする件数も増加。受動喫煙防止と街の美化のために何をすべきか市で検討した結果、分煙のために『けん引可動式閉鎖型喫煙所(喫煙トレーラーハウス)』を設置することになりました」。

「けん引可動式閉鎖型喫煙所」とは、けん引による移動可能な車両型の喫煙所。車内の煙は喫煙所専用のプラズマ脱臭機が煙や匂いを吸着して排気する仕組みになっているため、喫煙所の近くにいても煙や匂いを感じることが少ない。

 窓を大きくすることで視認性も高く、中には防犯カメラが設置されているなど、治安も考慮されている。また、トレーラーのデザインがスタイリッシュで自然と街に馴染むのも特徴的だ。

三鷹駅北口にある喫煙トレーラーハウスの外観

 武蔵野市は改正健康増進法と東京都の受動喫煙防止条例の全面施行に伴い、2020年7月に三鷹駅北口で喫煙トレーラーハウスの利用を開始。続いて今年の4月には吉祥寺駅と武蔵境駅周辺でも喫煙トレーラーハウスの利用を開始し、市内3駅周辺に喫煙所を設置するに至った。この取り組みの成果について、市の担当者は以下のように語る。

「先に利用が始まった三鷹駅北口の喫煙トレーラーハウスについて市民や近隣事業者から喫煙所設置に対する感謝の言葉をいただきました。苦情の電話件数なども以前に比べてかなり少なくなった印象です。路上禁煙地区内の指導件数も大きく減少しました。設置前は心配や不安もありましたが、周りからの反応も良く、マナー向上に繋がっていると思われます

 また、東京都千代田区にある法政大学も喫煙所の設置により街の美化に貢献している一つの事例だ。

 法政大学では改正健康増進法全面施行前からキャンパス内にいくつか喫煙所が設置されていたが、施行後は受動喫煙防止を一層強化するために、3キャンパスの主な指定屋外喫煙所にパーテーションを設置した。目的について、法政大学の広報課はこう語る。

喫煙所を整備することにより、副流煙による健康被害の軽減が図れることはもちろんですが、分煙化に対する本学の取り組み姿勢を示すことで、喫煙者のマナー向上や意識づけも期待しております

 しかし、これまでも非喫煙者からたばこの煙に関する苦情は多数寄せられ、その度に喫煙場所の変更や縮小を繰り返してきたという。それでも喫煙所を撤廃するに至らなかったのは、キャンパス内外の美化に努めるためだ。

「特に市ケ谷キャンパスは、生活環境条例による路上禁煙地区に指定されている外濠公園が目の前にあります。キャンパス内の喫煙所を撤廃すれば、外濠公園でのポイ捨て増加が懸念されるため、本学では“分煙”への相互理解を求め、喫煙所の整備を行うことにしました」

新宿駅・西口ロータリー内に2020年4月より新設された喫煙所。路上でタバコを吸う人も少なく、分煙パネルに囲まれているため煙も外に漏れていない

 このように喫煙所を設置している場所では、いずれも何らかの良好な結果が出ている。  筆者自身、喫煙所が次々と撤廃される以前よりも、路上で喫煙する人の数が格段に増えたように感じる。おそらく誰もが喫煙マナーを侵している自覚がなく路上でタバコを吸っているのだろう。

 もちろん喫煙所が撤廃され、様々な制限がある中で喫煙マナーを守りながらタバコを愉しんでいる人がいるのも事実。しかし、中には自由を奪われたことでストレスを溜め、喫煙マナーを破ることも致しかねないと感じている人も少なからずいるのかもしれない。

 紹介した武蔵野市や法政大学の例のように、喫煙所を設置することが分煙に対する理解を喫煙者・非喫煙者のどちらにも求めることができ、街の美化や喫煙マナーの向上に繋がることもある。

「タバコを嫌がる人が多いから喫煙所を撤廃する」のではなく、喫煙者も非喫煙者も心地良く過ごせるためには何が必要なのか。今一度、喫煙環境の整備や喫煙マナーについて考え直してみるのはどうだろうか。

●苫とり子●1995年、岡山県生まれ。東京在住。IT企業でOLを務めた後にフリーライターに転身。「Real Sound」「AM(アム)」「Recgame」「アーバンライフメトロ」などに、エンタメ系コラムやインタビュー記事、イベントレポート等を寄稿している。