誰より手料理を喜んだ夫の影響で、歌手から料理の道へ。レミさんが考案するレシピには、にぎやかな家族との思い出がいっぱい! イラストレーターで最愛の夫、和田誠さんを亡くした後、抜け殻のようになったレミさんを支えたのは、息子や本音をぶつけ合える嫁、孫たちの存在だった――。エッセイ集『家族の味』(ポプラ社)に温かな思い出の数々を綴ったばかりのレミさん。料理で結ばれた強い絆と、家族だけが知る素顔とは?

47年間連れ添った夫・和田誠さんを亡くして

 料理愛好家の平野レミさんの1日は、丁寧にお茶を淹れることから始まる。

「お父さん、乾杯!」

 和田誠さんが穏やかにこちらを見つめる写真の前に茶碗を置く。手に持った茶碗をカチーンと合わせると、レミさんは思いつくままに話しかける。著名なイラストレーターで最愛の夫だった和田さんが1年半前に83歳で亡くなって以来、毎朝の日課だ。

ちゃんと湯冷ましをしてちょっとぬるめにして、本当に、おいしい、おいしい、おいしーいお茶を淹れてね。だってね、和田さん、最後は肺炎になっちゃって水も飲めなかったんだから。それで骨になってうちに帰ってきたときに、大好きだったお茶を淹れて“はい”ってあげたの。そうしたら、和田さんがいつもと同じように“うん”って言ったのよ。和田さんの骨もちょっとカリカリって食べちゃったからさ。もう、一心同体よ。私の身体のどこかに和田さんが入ってるのよ。うれしいね

 テレビで見るまんま、テンション高めの声に早口で息つく間もなく話すレミさん。不思議なことは「ほかにもあった」と興奮ぎみに続ける。

 2015年からNHKで『平野レミの早わざレシピ! 』に出演。ビックリするような創作料理を毎回たくさん作ってきた。今年2月に第10弾が放送されたが、その収録直前のこと。

お父さんに、もうすぐ、たった1人で1時間の生放送をやるんだと話したら、放送の前の晩に夢に出てきちゃったの。それまで出てきたことないのにさ。不思議よねー

 無口だった和田さんは夢の中でも何も言わずに笑っているだけだったが、励ましてくれていると感じたそうだ。無事に生放送が終わった翌朝。レミさんはお茶を淹れて、こう報告した。

「お父さん、やったよー! 応援してくれて、ありがとうねー」

 家の中には仏壇や線香は置いていない。

和田さんに仏壇は似合わないと思って。チーンってやったらさ、本当に死んじゃったみたいじゃない

 その代わり、仲よしだった写真家の篠山紀信さんが撮ってくれた和田さんの写真の周りは、いつも色とりどりのお花であふれている。今でも、ふとした拍子に涙がこぼれる。「昨日もね」と話し始めたのは、ある商品のパッケージ作りが終わった直後のエピソード。

早くうちに帰って、私の顔写真が載った商品パッケージをお父さんに見せようと思ったの。その瞬間、ああ、和田さん、もういないんだと思ったら、涙が出ちゃった。スタッフもみんな目が真っ赤になっちゃって。和田さんが生きていたときはいつもそうしていたから

 レミさんにとって和田さんは47年間連れ添った夫、2人の息子をともに育てた父親というだけではない。

 結婚当初はただ料理好きな主婦だったレミさんを、料理愛好家の平野レミとして世に送り出してくれた、かけがえのない存在だ。

2018年冬、夫の和田誠さんと日光へ

今までは和田さんの手のひらにのっかって、自由自在に好きなようにやってきたけど、その手のひらがさ、土台がなくなっちゃったのよ……。私は、これからが地獄よ。今までが幸せだったから。あんまりね、いい人と結婚しないほうがいいかもね。死んだ後がたまらないから、本当に

 しんみりとした口調で話すレミさん。和田さんが亡くなった直後の嘆きぶりはどれほどだったろうか。

 当時のレミさんの様子を話してくれたのは、食育インストラクターの和田明日香さん(33)。明日香さんは、レミさんの次男でCMプランナーの和田率さん(41)と結婚して11年。10歳を頭に3人の子どもがいる。

お義父さんの写真の前にずーっといて、お義父さんの書いたメモとかをずーっと眺めていて。お義母さんはもう、本当に抜け殻というか、ものすごい喪失感で、何日もご飯も食べないし、水も飲まないし。

 心配になるくらいの様子だったので、しばらくはうちに泊まってもらって。私も同じ年に実母を突然亡くしていて、何も話さなくても気持ちがわかるので、よくお義母さんと2人で抱き合って泣きました。今でもたまに2人でボロボロ泣きながら、お酒を飲んでいます

 明日香さんにとってレミさんは姑だが、レミさんはまったく裏表がなく、本音と建前を使い分けるのが苦手なため、常に本心でぶつかりあえる間柄だという。そんな明日香さんから見た、レミさんと和田さんはどんな夫婦だったのだろうか。

「いつもお義母さんが100しゃべったら、お義父さんは0.5くらいなんだけど(笑)、なぜかバランスが取れていて。お互いがお互いのことを大事に思って尊敬しあっていて、本当に素敵な夫婦でしたね」