結婚の日に焼いたステーキ

 レミさんが結婚したのは1972年。シャンソン歌手としてテレビで歌うレミさんを見て、和田さんがひと目惚れしたのが始まりだ。

 当時、レミさんは久米宏さんとラジオ番組に出ていた。すでにイラストレーターとして活躍していた和田さんは、友人の久米さんにレミさんを紹介してほしいと頼んだ。だが、レミさんの自由奔放な発言に振り回されていた久米さんの返答は「やめておきなさい」。それでも和田さんはあきらめず、ラジオ番組のディレクターに頼むと「紹介してもいいけど責任は持ちませんよ」とまで言われた。

 一方、レミさんにとってはまるで知らない人からの突然のアプローチだ。どう感じたのだろうか。

私も、いろんな男の人と付き合ったけど、和田さんは全然違うの。大地にどっしりと立っている感じがして、全然揺らがないの。とっても自信に満ちているんだけど、偉そうな感じはしない。和田さんは無口だから、そんなにしゃべってないんだけどさ、 “あ、この人いいな”と思っちゃったのよ。“結婚しよう”と言うから、私も慌てて、“しましょう、しましょう”って。アハハハハ

 10日後には、本当に結婚してしまったのだから、よっぽど気が合ったのだろう。結婚式はせず、和田さんのアパートで『ウエディング・マーチ』のレコードをかけ、シャンパンを開けてレミさんがステーキを焼き2人で食べた。

結婚当初から肉料理が大好きだった和田さんに「牛が死んだのくれ」と言われてよくステーキを焼いていた
【貴重写真】上野樹里や和田明日香をまじえて一家で北海道旅行に行ったときの平野レミ

 常温に戻した肉の片面に塩、コショウを振る。熱くしたフライパンに油をひいて、肉を焼く。焼き加減を10とした場合、塩、コショウのついていない面を先に7焼いて、裏返して3焼く。最後に醤油をパッとたらし、バターを少量のせてできあがりだ。

 近所のスーパーで買ったごく普通の肉が、レミさんの母直伝の焼き方で、天下一品の味に変身!

「おいしい」

 満足そうに食べた後、和田さんがこうつぶやいた。

「死ぬまでにレミの料理があと何千回食べられるかなあ」

 その言葉を聞いたレミさんの心にスイッチが入る。

あ、この人は食べることに命をかけているな。そう感じたから、よし、私も頑張って、お料理を作っちゃおうと

 食卓にたくさんの料理を並べると、和田さんは必ず、食べたことのない料理から箸をつけた。そして、「おいしいけど、ちょっとコクが足りないかな」など感想を口にする。

やさしいのよねぇ、言い方が。“こんなマズいものダメだ”なんて言われちゃったら、“もうやんねえよ”ってなるけど、いつも心から、“おいしい、おいしい”って食べてくれたからね。歌の仕事は少しずつ減らしていって、どんどんどんどん、料理の世界にのめり込んでいっちゃったー