パンツを脱ぐより恥ずかしいこと

 レミさんの料理愛好家としてのキャリアは40年、これまで発表したレシピは数え切れない。意表を突く料理も多いが、実際に作ってみると簡単で本当においしい。

 特に大きな支持を得たのは、時短料理の草分けともいえる「食べればシリーズ」だろう。作り方は手抜きでも食べると味は同じという楽しい料理だ。

 シリーズの第1号は「台満餃子」。お客を呼んで水餃子パーティーをやる予定だったのに帰宅時間が遅くなり、1個ずつ包んでいたら間に合わないと思いついた。

 餃子の具を大きいハンバーグ状にして耐熱皿に広げて電子レンジでチン。お湯を沸かし、餃子の皮がくっつかないように油をたらして1枚ずつ入れる。浮いてきたらすくって、具の上にのせる。香菜を散らし、酢、醤油、ラー油をかけて完成。

 味はまさに水餃子で、みんなでつついて食べるとパーティーは大盛況。お客の1人が「怠慢だね」と言ったのを聞いた和田さんが、漢字を中華風に台満と変換して名づけてくれた。

「ごっくんコロッケ」(発表当時はプレコロッケ)は、お腹をすかせた幼い唱さんに、「コロッケが食べたい」とねだられて急いで作った、成形しないコロッケだ。

ごっくんコロッケ

 キャベツの千切りを大皿に盛って、ジャガイモを電子レンジでチン。その間にひき肉と玉ねぎのみじん切りを炒めて塩、コショウを振り、ほぐしたジャガイモと一緒にキャベツの上にのせる。コーンフレークを崩してパラパラかけ、ソースをかけて完成。

ごっくんして、帳尻があっていればいいじゃない。主婦の料理は、そういうふうに自由にやっていいのよ。キッチンに立つ時間も短くてすむし、賛同を得ちゃった

 ほかにも、たこ焼き、小籠包など「食べればシリーズ」はどんどん増えて、今では30品もある。

 レミさんは料理学校に通っていないので、いわゆる料理の常識にはとらわれない。だからこそ生まれた創作料理も多い。

 例えば、NHK『平野レミの早わざレシピ! 』で紹介した「ホタテどっち」。普通、ホタテは旨みが逃げないように片栗粉をつけて炒める。だが、レミさんはホタテには何もつけず、輪切りしたエリンギに片栗粉をつけてホタテの旨みを吸わせるようにした。その結果、口にしたときにどっちがホタテかエリンギかわからなくなる不思議な料理が生まれた。

 レミさんのマネージャーの奥田暁美さん(54)によると、本番前日までは普通にホタテに片栗粉をつけていた。それなのにレミさんが「絶対、逆だ」と言い出し、スタッフみんなの反対を押し切って、本番直前のリハーサルで試作。レシピを変更したのだという。

ああ見えて、平野はすっごく努力家なので、納得できなかったりおいしくない料理を公開するのは“パンツを脱ぐより恥ずかしい”と言って、どんどんブラッシュアップするんですね。人に何と言われようが、自分の舌を信じて、自分のやり方を通すので、手伝う人間にとっては、とても大変ですが(笑)

 ときには生放送で失敗をしてしまうことも。先日も長ネギを1本、そのまま鍋に放り込んでしまい、慌てて切る様子がツイートされてバズったばかりだ。

本当に平野は気短で、せっかちで、目の前のことしか見えていないので、自分ではネギを切ったと思い込んじゃったんですよ。よく作りながらこぼしたり、散らかしたりもするけど、あれもわざとハチャメチャにしているわけじゃなく、いつもどおりやっているだけなんです。そういう飾らないところが“うちのお母さんそっくりだ”と言われたり、共感されるんでしょうね

 2019年10月に和田さんが亡くなって、まもなくコロナ禍に。巣ごもりで料理に目覚めた人も多いせいか、自粛期間中もレミさんへの依頼は途切れず、毎日のように仕事をしていた。今年3月には和田さんとの思い出や家族に伝わるレシピ満載の単行本『家族の味』(ポプラ社)を出版した。表紙は和田さんが描いたレミさんの笑顔のイラスト。和田さんと初めて夫婦で登場した週刊誌の対談も転載されている。

 こうして忙しく仕事を続けることで、救われている面もあるという。