「動物園も撮影スタッフも自覚が欠けている」

 また、ヒトとチンパンジーの比較研究を専門とする松阪崇久さんは、次のように話す。

動物園では、来園者や園の職員の間での新型コロナの感染だけでなく、人から動物への感染を防ぐために、様々な対策がおこなわれています。たとえば、予約制による入園者数の制限です。これは人間同士の感染予防でもあります。来園者と動物の間の距離の確保、動物との触れ合いコーナーや餌やりコーナーの中止といった対策です。

 動物と直接に関わる飼育員や獣医師の方たちも、直接の接触はできるだけ避け、接触が必要な場合には手袋の装着や手指の消毒を徹底しているようです。また、来園者と飼育員の間での感染防止のため、飼育員によるガイド・ツアーなどを中止している園もあります。また、他の地域への出張から戻った際などには、検疫期間として2週間は動物に近付かないようにしているという話も聞きました。

 動物園ではこのように、動物に新型コロナを感染させないために、かなり神経をとがらせて対策がなされているようです。なかでも類人猿に対しては、とくに慎重な対応がおこなわれていると思います。ヒトに近いためにヒトの呼吸器感染症への感染の危険性が高い上に、チンパンジーもゴリラもオランウータンも絶滅危惧種だからです。

 阿蘇カドリー・ドミニオンで行われた撮影ロケは、こういった全国の動物園の対応とはまったく異なっており、疑問を感じざるを得ませんでした。感染多発地域である東京から訪れた芸能人が、チンパンジーを抱いたり、くすぐったり、チンパンジーにマスクを触らせたり、マスク越しにキスしたりしていたからです。動物園にも撮影スタッフにも、世界的に保護されている希少な動物を預かっているという自覚が欠けているように思います」

 何度も行われてきた警告を無視した末に起こった事故。そして引き続き行われ続ける動物の意志を無視したショーやテレビ出演時の演出……。これらに対する署名や警告は現在も続いているが、園はそれに対応していない。ショーを強要し続けることは人間のエゴにほかならないし、視聴者や来園者に“感動”を与えてくれたチンパンジーが、また不幸な事故を起こすこともあってはならない。

 プリンちゃんは現在、5歳半である。